特集 薬物依存をめぐる諸問題
薬物依存の概念
田所 作太郎
1
Sakutaro TADOKORO
1
1群馬大学医学部行動医学研究施設行動分析学部門
pp.836-841
発行日 1984年12月15日
Published Date 1984/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401206960
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■用語の混乱
大昔からケシを原料とするアヘン類は強力な医薬品としての資格を持つことが知られていたが,同時に多くの人びとはそのなかの神秘的ともいえる特定な薬理効果に限りない魅力を感じ,耽溺し,生きる目的のすべてをここに集中した.薬物は生体の機能を変え,治療上有用な作用をあらわすが,ヒトを薬物依存という泥沼にひきずりこむ魔力をも秘めているのである.ヒトだけでなく,発達した脳をもつ多くの動物も,ムードを変え一時的に快感をもたらす薬物によろめく本性を持っている.
薬物乱用と依存をめぐる問題は,単に医学・薬学領域に限局されるものではなく,時には国勢を支配する大事件にまで発展する.アヘン戦争(1840〜1842)しかり,またアメリカ合衆国における禁酒令(1920〜1935)による暴力団の跋扈,最近ではベトナム戦争におけるヘロインとマリファナの深刻な汚染等は特記に値する.さらに現在,わが国における覚せい剤や有機溶剤乱用の大流行は,しばしば狂気を招き凶悪,残忍な無差別殺人事件をひきおこすに至っている.
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