本の紹介
—福井作蔵ほか編—『生活微生物学』
豊川 裕之
1
1東京大学・疫学
pp.247
発行日 1983年4月15日
Published Date 1983/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401206681
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本書は,これまでとかく基礎医学の堅苦しい領域の学問として印象づけられて来た微生物学を,日常生活の場まで近づけて解説した,意欲的で分かり易い微生物学入門書である.文章も平易にする工夫の跡が見られるが,何よりも興味を惹くのは編集上の配慮であろう.そのことは端的には章の建て方に見出される.
第一章の「生活微生物学とは」は扉として微生物の重要性を気付かせる内容であり,第2章以下は「天然食品の保存・流通と微生物」,「加工食品と微生物」,「食生活と微生物I(家庭発酵食品)」,「食生活と微生物II(調理環境と微生物)」,そして「社会生活と微生物」,「生活プロセスに由来する環境の異常とその正常化」の各章で食品衛生,微生物の活用等を生活の実際面に即して述べており,次いで「健康の維持と微生物」では微生物による疾病や医療品としての抗生物質などに触れ臨床医学的な領域についても説明している.さらに,この本の特色を形成することであるが,「文化と徴生物」の章の内容はおもしろい.酒や末来食の展望,エアコンと微生物,藍染め,文化財の保存,プラスチックと微生物,そして分子生物学と微生物など医学者にとっても教えられることが盛りだくさんである.このような内容の後に,本書としては最終コースに,初めて「微生物学の概要」(第10章)が登場する.
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