人と歴史
もう一人の"医聖",ベチューンの話
品川 信良
1
Shinryo SHINAGAWA
1
1弘前大学産婦人科学
pp.591-595
発行日 1980年8月15日
Published Date 1980/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401206143
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■はじめに
資本主義社会,というと話は少々ぎこちなくなるが,欧米や日本の医療関係者なら誰でも知っているはずの,ヒポクラテスやシュヴァイツァーやナイチンゲールのことが,いまの中国の人びとの間には,意外に知られていない.そして,その代わりに,新中国では,"医師の鑑(かがみ)"や"献身的・模範的な良医"といえば,それはカナダ人医師ノーマン・ベチューン(Norman Bethune,1890〜39年)のことになる.新中国では,かなりのインテリと思われる通訳子でもヒポクラテスやシュヴァイツァーのことはよく知らないが,小学生でもベチューンのことなら知っている.そして,彼ベチューンは,模範的な医師よりもさらに昇格して,いわば"医聖"の座をさえ与えられている.彼の功績と崇高なる精神を讃えて,中国政府は河北省の石家荘に「白求恩(ベチューン)和平記念病院」をつくったほどであり,彼の墓地は,すべての中国人が生涯に一度は,弔意を表すべきところの一つとされている.
ベチューンについては,既にわが国においても,二,三の翻訳ものなどが出版されてはいる.しかし,なぜか,一般の医療関係者の間では,まだほとんど知られていない.
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