特集 地域の健康管理
母子保健事業の展開と保健所の機能—小田原保健所の活動
鈴木 忠義
1
1足柄上保健所
pp.391-394
発行日 1976年6月15日
Published Date 1976/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401205199
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はじめに
地域の健康管理とひと口にいっても,その対象と内容はいちじるしく大きな広がりを持っている.母子保健を例にとれば,結婚前の女子,妊産婦,新生児,幼児などの年齢的なもの,貧血症,妊娠中毒症,未熟児,障害児などの質的なものがある.さらに生まれてくるわが子への人知れない不安や,発育ノイローゼなどの心理的なもの,あるいは未婚の母,それに関連することが多い,わが子を殺してしまう問題など,広くすべての地域住民が経験するであろう問題と,ごく限られた人が持つであろう,量的には小さいが,しかし質的に大変複雑な現象などがある.これら,人の生存を左右する因子を発見し,正しく理解し整理して,住民とともに考え,専門技術を用いて援助することは,これだけでも実は大事業である.ましてや,旧来の伝染病対策の概念から逸脱するような感染症,あるいは循環器疾患・悪性新生物などの成人病,環境の汚染によるいわゆる公害病などの諸問題を限られた組織と予算で消化していくことは,まさに広く,浅いという批判のとおりである.
しかし,現在衛生行政の第一線機関を自負する保健所は,これらを自覚しながら,大なり小なり何らかの形で関与し,時にささやかな満足と,時に大いなる敗北感やあきらめを感じつつ,日々の業務に励んでいるといったところが,いつわらざる現状であろうか.
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