主張
環境汚染とスクリーニング—住民に期待する"環境衛生行動"
辻 達彦
1
1群馬大・公衆衛生
pp.606-607
発行日 1969年11月15日
Published Date 1969/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203971
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はじめに
最近の環境衛生の問題は,水俣病やイタイイタイ病と公害を例にとっても,単に保健の問題であるばかりでなく,水産業,農業につながる生活保障の要求のウエイトが過大である.
また社会の眼も必ずしも一次的に保健に向いているとは限らない.このような場合に,公衆衛生関係者にとって対処しにくいもどかしさを感ずる.たとえば養魚地に産業廃水が流入して被害を生じたり,農産物に有害物質が含まれる事態でも,これまでの予防医学を中心とする公衛従事者のできるのは,ある程度の環境測定と,人体影響への波及を防止する衛生教育に徹するほかはなさそうである.産業衛生の主題のひとつが職場環境悪化防止であり,これに従事する研究者,衛生管理者は多いが,地域環境の人為的汚染ないし悪化に対する専門家の育成が等閑視されていたきらいがある.化学的環境汚染ばかりでなく,放射能のような物理的汚染や騒音(sound pollutionという言葉もある),粉塵公害に対し,旧式な衛生学では手に負えないものがある.大部分の公害は発生源が明白であり,人体影響への因果関係は職場環境ではつきとめられても,現実の地域環境ではあまりに要因が多すぎ,単純な因果関係の確立は至難である.とくに疫学的にいえば,生活史が不分明ないわゆるイタイイタイ病とCdの関連についても,定説の登場にはもう少しの日時がいることと思われる.
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