主張
食品衛生対策の方向
松井 武夫
1
1国立公衆衛生院衛生獣医学部
pp.310-311
発行日 1969年6月15日
Published Date 1969/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203884
- 有料閲覧
- 文献概要
対人衛生から対物衛生へ
食品衛生法第1条に"この法律は,飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し,公衆衛生の向上および増進に寄与することを目的とする"とある.従来から,食品衛生のあらゆる施策を行なうに際して,その姿勢はこの法文に基づいて危害発生防止を中心にして行なわれている.これはわが国における食品衛生対策が公衆衛生対策の発展と歩調を一にして,まずPersonal Health Service(対人衛生)の範疇に入れられて始まってきたことから当然のことといえよう.
すなわち,これまでは,飲食物によって伝染病が流行したり,食中毒が発生することに対して,それは人の直接の危害として人体の側から病因物質,人の危害の状況,防疫方法などを解明するといった面の処理に重点がおかれていた.今日においてもこの考え方が間違っていると思わない.しかし,このような考え方で食品衛生対策にたずさわっている者が,理屈では割り切れないある種の矛盾を感じるのが常である.その矛盾とは"飲食物で危害が発生してからこれに対処することよりも,危害が発生しないように対処することのほうがだいじなことではなかろうか"ということとのわずかなへだたりである.この矛盾は飲食物によって伝染病が発生したときの処理ではさほど強く感じないのであるが,食中毒のように非流行性の事件処理に当たっているときいっそう強く感じるのである.
Copyright © 1969, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.