人とことば
追いかけの公衆衛生
藤本 薫喜
1
1長崎大学衛生学
pp.1
発行日 1969年1月15日
Published Date 1969/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203797
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ライスオイルによる中毒らしいという患者が北九州地方に多発していると新聞が報道し,その原因は食用油に混入していた砒素化合物ではないかと,患者の使用していた油を分析した結果よりして,久留米大学医学部の山口教授が発表した.43年度における公衛畑での食中毒事件としては,社会の耳目をそばだたせた筆頭のものである.特に,そのライスオイルは販売ルートにのって西日本各地に広がり,使用した人口数が多く,使用期間も数カ月を重ねた者が多いとなってはことは重大である.油の性質,その使用方法,患者の症状よりして,細菌性の中毒ではないことが即断される.この油を用いて調理をする際は120℃以上の熱がかけられるのが一般であるから,何か熱によっても分解しない性質の毒性物質が混入していると考え,他方,皮脂腺,皮膚の色・光沢などの変化と肝障害などとが主な症状であるというところから,重金属中毒が考えられたのであろう.米ぬかを原料とした油に有毒物が混入するとすれば,米の生産過程中に殺虫防虫剤などに含まれていた物質が米,特にぬかに蓄えられており,これが油に移行したのか,米ぬかが作られて後に毒性物質が混入したか,油の製造過程で混入したか,特に精製の過程で用いられる化学工業薬品中に不純物として混在している毒性物が混入したのか(ビン詰の工程中に混入したと疑うのはおかしい)などの場合を考えるのが一般常識である.
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