特集 大気汚染
疫学から見た大気汚染
猿田 南海雄
1
,
山口 誠哉
1
,
石西 伸
1
,
児玉 泰
1
,
国武 栄三郎
1
,
堤 達也
1
1九大衛生学
pp.633-638
発行日 1963年12月15日
Published Date 1963/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202754
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緒言
大気汚染は最も公衆衛生的な問題であり,不特定,最多数の一般市民生活に最も緊密に直結した問題であるので,その研究の推進は一般市民から最も多く歓迎される問題であると考えられるのに実際はその逆で,これ程市民からは喜ばれない。その上学会からは白眼視され,事業会社からは嫌悪される問題は他にその例を見ないように思う。なぜこの問題がそれ程までに各方面に喜ばれないかを考えてみるに,それは一般市民にとっては何等直接に形而下学的利益を与えない,のみならず時には却って不利益をさえ呼び起こすであろう。それは会社の好況と共に栄え,不況と共に呻吟する一般市民の心理状態としては,その期するところは自ら明らかで,それ以上の多言は不用であろう。問題とされる諸事業会社が本問題を歓迎しないのは当然すぎるほど当然である,ただ分らないのは学会の白眼視であり,牽制である。本問題が学会でシンポジアムの形でとり上げられたのは,昭和33年10月19日九大において,著者司会の下に行なわれたのが最初であり,その後もその取扱いは必ずしも盛んとはいえない。文部省研究費補助に至っては,全く惨酷であるとさえいえる。著者はこれに関し10年近く毎年請求を出しているが,未だ嘗て一度も下付を得たことがない。余りのことにたまりかねて内偵したところによると,「大気汚染は政治であって学問ではない」ということで研究費をくれないらしい。
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