綜説
牛乳中の大腸菌群の熱抵抗性に関する実験的研究—特に加熱環境と大腸菌の加熱致死時間との関係について
春田 三佐夫
1
1東京都立衛生研究所
pp.75-80
発行日 1961年2月15日
Published Date 1961/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202373
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I.緒言
細菌が加熱あるいは各種消毒剤によつて殺菌される場合,いわゆる単分子反応式の法則に従つて対数的な死滅減少の経過を辿る事実についてはすでにMadsen & Nymann1),Chick & Martin2)らによつて明らかにされている。すなわち,任意の時間における殺菌速度はそのときの生菌数に比例し,生菌数の対数と時間との間に直線的関係が成立するということである。これは細菌死滅の対数法則(law of log arithmic order ofdeath)といわれている。著者3)は牛乳中の大腸菌群の熱抵抗性に関する一連の研究において,牛乳中の大腸菌群が加熱処理によつて死滅して行く際にもこの法則が当てはまることを報告した。さらにこの事から,一定温度で加熱する場合に,一定容積中に大量の大腸菌群が存在するときには死滅に長時間を要すること,換言すれば熱死点が高くなるということ,また逆に菌量が少なければ短時間に死滅すること,換言すれば熱死点が低くなることを報告し,もし原乳中に大量の大腸菌群が存在する場合には,62℃,30分の低温殺菌条件の下ではときに殺菌乳中に大腸菌群が残存する可能性のあることを示唆した。大腸菌群の中でも特にE. Coliに属する菌株は他の菌型に属するものよりも熱抵抗性が大であるので,このような可能性が大であると考えられる。
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