特集 保健所管理
綜説
わが国の衛生行政の推移とその特質
橋本 正己
1
1国立公衆衛生院衛生行政学部
pp.1-12
発行日 1960年1月15日
Published Date 1960/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202229
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I.緒言
わが国における衛生行政は,その濫觴を医制発布(1874)に求めるとして,すでに85年を経過しており,その歴史は決して新しいものではない。また,衛生行政の指導理念やその具体的な諸施策,諸制度などは,それぞれの時代の社会的,経済的な諸条件の深い影響を受けながら発展したものであり,この意味で明治の開国以来約1世紀のわが国の歴史がその後進性や国際情勢下における特殊な立地条件のためにはげしい変化を含んでいるのと軌を一にして,衛生行政の推移もきわめて変化に富んだ質的内容を有するものといえる。とくに,第二次世界大戦後におけるわが国の政治,経済,社会,教育などあらゆる領域における民主主義の線に添つた根本的な改革は,当然のことながら衛生行政の分野にも基本的な改革をもたらし,その後10余年の間における公衆衛生の進歩発達は,史上にも余り類例がないといつても過言ではないと思われるほどである。
しかしながら,一方において昭和27年講和条約の発効とともに,あらゆる分野における占領政策の是正や反動的な流れの影響により,衛生行政の分野においても種々の意味における後退が憂慮されていることは事実であり,さらに他方において国民皆保険の方式による医療保障や国民年金による所得保障など,一連の社会保障制度が新しく日程に上つており,このような社会的条件を背景として衛生行政もまた時代の要請に応じた新しい段階に止揚されるべき時期に直面しているといえる。
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