医学生に対する衛生学公衆衛生学の教育・9
労働衛生学
堀内 一彌
1
1大阪市立大学
pp.745-746
発行日 1959年12月15日
Published Date 1959/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202220
- 有料閲覧
- 文献概要
私どもの大学に於ける衛生学公衆衛生学教育のカリキュラムについては,大分以前に求められて医学雑誌に書いたことがある。そのころと本質的に変化はしていない。教育のうちの1つの重点は労働衛生学におかれている。それというのも我国の将来に於ける社会のありさまが,工業殊に重工業を主体とする立国方針によらねばならぬであろうし,殊に私どもの大学の立地条件が日本に於けるその場合の一中心となると考えたからである。産業殊に重化学工業の進歩は,人間の生理状態と著しく相反する物質やエネルギーを,生産技術の手段として用いるようになつて来ている。現状では常に生産技術が優先され,生産に従う人々の保健は二の次にされている。私どもは現在の医学教育機構のなかで,出来るだけ公衆衛生の理論と実際の心得のある医師を世に送るべきであるので,教育の一重点を労働衛生学に置くことは極めて大切であると考える。
実際に労働衛生学の講義その他のための時間数は,第4学年前期に毎週1.5時間,合計24時間である。しかし上述したような観点から,医学部第1学年からはじまる衛生学公衆衛生学教育のすべてを通じて,産業集団を頭においた教育をする様に心がけている。たとえば人口論で死亡率を論ずるときには職業別死亡統計に,環境生理衛生学では作業環境条件とヒトに,栄養学は集団への栄養問題に,疲労は産業疲労に,それぞれ重点を指向して教育を実施している。
Copyright © 1959, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.