特集 精神衞生
論説
日本の精神衞生当面の問題
斎藤 鐐一
pp.2
発行日 1953年9月15日
Published Date 1953/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201258
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戦後,入院を希望する精神障害者が著しく増加してきた。そして各精神病院とも入院患者で満員の盛況である。昭和26年4月以後,入院患者数は定員病床数をはるかに突破して参り,そのように圧縮入院をしてもその收容力を増加せざるを得ない状況においせまられてきたのである。この傾向は年とともに益々著しく,病床の増加する率をはるかに超過して入院を希望する患者が激増してきている。もうこれ以上には,許可された範囲に定員を超過して收容しようにも收容しきれない段階に立ち至つている。文明の発達とともに精神障害は益々増加するといわれているが,戦後日本において,精神障害が増加したという確証は残念乍ら見あたらない。しかし,時代の変遷に伴う増加は別としても,東大内村教授の下で戦前行われた実態調査を基礎として推定すると,日本においては,精神分裂病,そううつ病,てんかんの患者のみで約60万人という数字が得られる。この数字と比較して,余りにも入院可能病床数の少いのに慨嘆せざるを得ない日本の状況を,関係者の,或は国民の理解がたらないためと簡単に片付けられるのみでは済まされないものを感ずる。精神病の発生後における対策ですら,誠に貧弱すぎるというのが日本の実情である。
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