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市町村国民健康保険が抱える構造的問題とこれまでの対応
市町村国民健康保険(市町村国保)は,わが国の皆保険体制を支える「扇の要」であり,「最後の砦(last resort)」である.市町村国保の課題は,皆保険体制全体の課題に直結する.市町村国保が抱える構造的問題としては,①被保険者の年齢構成の問題,②財政基盤の問題,③保険者編成の問題,の3点に大別することができる.社会保障審議会医療保険部会資料(2014年8月8日)においても,ほぼ同様の問題意識の下に,1)年齢構成,2)財政基盤,3)財政の安定性・市町村格差,という3点に整理し,さらに具体的に7つの問題点が列挙されている注1).
このうち,①については,被保険者の年齢構成が高く,医療費も高いという問題である.たとえば,前期高齢者(65〜74歳)の割合は,健康保険組合(健保組合)が2.5%なのに対し,市町村国保は32.9%と桁外れに高い.この結果,一人当たり医療費も,健保組合の14.2万円に対し,市町村国保は30.9万円に達している.そもそも市町村国保の被保険者の年齢構成が高いのは,国民皆保険体制の構造自体に原因がある.すなわち,皆保険体制の構築に当たっては,まずすべての地域住民を市町村国保の被保険者とした上で,他の制度でカバーされる場合は「適用除外」とするという基本的構成(国民健康保険法第5条および第6条)をとり,市町村国保が皆保険体制を支える基盤的制度として位置づけられてきた.その結果,被用者保険が「突き抜け方式」をとっていないわが国においては,高齢退職者の多くが市町村国保に「還流」するという構造になっているのである.この問題に対処するため,これまで多くの制度改革が試みられてきた.1980年代における老人保健制度,退職者医療制度といった調整制度の創設およびその後の機能強化,さらに21世紀に入ってから,前期および後期高齢者医療制度が創設されたのも,すべて,こうした市町村国保の構造問題に対応し,皆保険体制を支えることが主要な目的であったと言える.
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