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WHOが2年ごとに発行する世界保健報告書(World Health Report)は,新しい課題を展開する先駆けとなってきた.今回のテーマは,「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの研究」(http://www.who.int/whr/en/index.html).「研究」というとゲノムやiPS細胞を使った高度なものを考えがちだが,公衆衛生分野での研究も活発で,報告書では,以下12の事例を示している.①殺虫剤処理蚊帳使用によるマラリア死亡者数の低減(サハラ砂漠以南の22アフリカ諸国のデータ解析),②抗HIV薬のエイズ伝播予防効果に関する無作為コントロール試験,③亜鉛添加による肺炎と下痢による死亡率低減効果に関する無作為コントロール試験,④テレメディスンによる小児医療の質改善(ソマリアの小児医療をケニアのナイロビから支援),⑤多剤耐性結核の迅速診断法導入の効果判定,⑥心血管障害予防の為の合剤の開発(polypill)とその効果,⑦リーシュマニア症の二剤併用療法の無作為コントロール試験,⑧保健従事者の役割分担の変更による小児保健向上に関する多国間比較研究,⑨ブルンジにおける産科救急病棟と救急搬送サービスの効果に関する後ろ向きコホート研究,⑩途上国における金銭的動機付けによる受診勧奨の効果,⑪メキシコにおける医療保険導入による医療アクセス向上に関する実証研究,⑫医療システムの持続可能性の予測研究.
これらは,いずれも保健サービスのアクセス向上策とその効果判定を意図したものであるが,手法も対象も実施主体も異なっており,これらの研究からはいくつかの教訓を汲み取ることができよう.第一が,多彩な研究方策がありそれを適切に選択すること,第二が,研究の主体は途上国のことも多く,先進国・途上国を問わず,すべての国が研究の主体であり利用者であること,第三が現在進行中の事象が研究対象となるので,難しいことがでてくる反面,いま一歩その応用に気をつけることでその研究成果を政策として実施に持ち込むことができるということである.ただ,報告書はなぜ政策に反映されないことが多いのかについても解析している.往々にして,研究の焦点が現場や政策決定者の懸念事項とずれている,研究報告が科学的には正しくとも非専門家には咀嚼できない,提案された解決策が財政的・実務的に実行不可能なことなどである.
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