- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
口腔乾燥症(ドライマウス)に罹患していると考えられる潜在患者数は,海外で報告された疫学調査1)から算出すると,日本国内で約800万人から3,000万人と推定されているが,本症の認知度は低く,自覚症状があっても受診されていない,あるいはどの診療科を受診すべきか知られていないのが現状である.さらに,診断法や対処法も普及しておらず,その受け皿となる医療機関も限られており,本症の普及や診療のガイドラインの確立が求められている.
ドライマウスは,様々な病因が重複して発症する場合が少なくない.ストレスや更年期障害,薬剤の副作用などがその複合的な要因の一つとなる.特に,高齢者は様々な要因により発症することが多いことから,単に加齢により乾燥するという判断は安易であり,老化と断定して患者に伝えることは適切とは言いがたい.服薬大国と言われる日本では,医療者だけの問題ではなく,受療者自身が薬に依存するという意識をまだまだ根強く持っていることの現れでもある.口腔乾燥感を訴える薬剤は降圧薬,抗うつ薬,睡眠導入薬などの治療薬などが挙げられる.これらは,高齢者で服薬の可能性が高いとはいえ,複数の要因が加わってドライマウスを呈することが極めて多いと推測できる.このことから,口腔乾燥症状に対する対症療法のみならず,生活習慣に対する指導,さらには心身症としての対応も必要となる.
ドライマウスの病態は口腔内だけでなく,摂食・嚥下機能の低下,誤嚥性肺炎,上部消化管障害の原因となることも明らかである.特に高齢者では肺炎のリスクが高く,唾液量減少への対処は重要な意味を持つ.さらに,口腔内の不快感に不安を持つことによる精神神経的な影響も考慮しなければならない.
先進国での医療の大きな役割のひとつに「QOL(quality of life)の向上」が問われて久しい.生活の質を高めるためのニーズを見据えた新たな医療の展開は,歯科と医科との連携で模索されるべきであろう.
本稿では,ドライマウスの現況を紹介する.
Copyright © 2013, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.