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はじめに
危機は公衆衛生だけに限ったものではなく,“公衆衛生も保健所もまた危機”と言うべきだろう.少子高齢化,経済破綻,そして最も大きい要因であろう地域の互いの信頼関係や支え合い等の脆弱化を背景として,あらゆる分野に危機が訪れている.この負の潮流の中で,保健予防の範囲に限定された縦割りの“公衆衛生行政”だけで危機回復に臨むのは無謀であり,地域づくりを担う広義の公衆衛生として,地域一丸となって挑んでこそ,道が拓かれる.ここに及んで,中央行政や制度改革等の外部力で危機回避を期待しているのであれば,すでに危機の段階は終了し,崩壊・終末を迎えたと言ってもよい.危機を感じている保健所が自ら健康危機管理を担うことで,国の指示を受けて健康危機管理に保健所の生き残りを託して関わっているとしたら,残念ながらその結果は見えているように思う.公衆衛生に対する正しい理解と,重要性の再認識により,地域に目を向け,「(地域力を含めた)住民力」をエンパワメントして地域づくりを展開することが,あらゆる分野の危機回復につながると確信している.
第50回および60回の全国保健所長会の記念シンポジウムで,筆者は発言の場をいただいたが,65回目の今もその時の意見と概ね変わっていない.“ぶれないこと”を自分の誇りにしてきた.これまで職場やポジション,取り組む課題が変わっても,「住民力」のエンパワメントこそが公衆衛生に必要不可欠であることを意識して取り組んできたことが根底にある.当時WHOにおられた尾身茂先生が,「最重要課題は地域における関係性の再構築」と指摘されたことが印象深く,今も私にとって大切な道標になっている.関係性の再構築を目的に,日常の活動が見直されれば,公衆衛生の第一線機関としての保健所の危機は,必ず克服できると思う.
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