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はじめに
病院中心から地域ケア中心の精神医療への転換が謳われて久しい.しかし,現在においてもわが国の精神および行動の障害による平均在院日数は305.3日(2008年)と,欧米の先進国に比較して非常に長く,まだ十分にその成果が得られているとは言い難い.疾患別に見ると,神経症性障害が47日であるのに対し,統合失調症圏の疾患では546.7日であり,精神医療の対象疾患が飛躍的に拡大している現在においても,統合失調症が地域移行,地域ケアの面から最重要の精神疾患であることに変わりはない.また,平均在院日数の地域格差もかねてから指摘されているところである.鳥取県171.1日,島根県185.5日と短い県もあれば,宮崎県580.9日,徳島県645.9日と,地域によって3倍以上の在院日数の差が認められている1).
しかし,日本の医療の中で精神医療が軽んじられているというわけではく,むしろ精神医療の重要性,必要性は時代とともにますます強くなってきている.そのひとつの現われとして,2011年7月の社会保障審議会医療部会において,医療法に基づく医療計画に地域医療連携等の対策を記載することとなっている4疾病(がん,脳卒中,急性心筋梗塞,糖尿病)に精神疾患を加えて5疾病とする提案が,厚生労働省によって示された.これにより今後は,医療計画に精神疾患が加えられることになるであろう.これは,精神疾患の患者数が年々増加し,病院と病院,病院と診療所,さらに在宅へという連携に重点を置く必要性が高くなっていること,認知症やうつ病の増加,自殺や社会的入院の問題も含む精神疾患への対応が喫緊の課題となっていること,さらにわが国に関して算出された障害調整生命年(disability adjusted life years:DALY)によると,疾患区分の中で精神神経疾患はトップであり2),社会的にも十分な医療体制を整える必要があることなどが強く認識されるようになったことを反映していると考えられる.
このような時代の流れの中で,地域におけるこころの医療のネットワークはなぜ必要で,どのように推進していくべきなのか,本稿で筆者の考えを述べたい.
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