連載 世界の健康被害・3
命のざわめき
鎌仲 ひとみ
1,2
1多摩美術大学
2国際基督教大学
pp.250-251
発行日 2011年3月15日
Published Date 2011/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401102063
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子ども時代を富山県の田舎で過ごした.どこにでもあるような平凡な農村で,家は兼業農家だった.家では豚と鶏と猫と犬を飼っていて,5歳から7歳までの2年間,隣の集落でヤギを飼っている農家まで毎朝6時に起きて歩いて行き,とれたてのヤギのお乳を飲んでいた.大きなアルミの鍋でゆっくりと暖めた草の香りのするお乳を,私はそんなに好きではなかったが,母親が虚弱体質だった私に身体にいいと聞きつけて飲ませようと思ったらしい.
田んぼの一本道を,夏は露に足をぬらしながら通い,暖かいヤギ乳をコップに1杯飲んで,もう牛乳瓶1本分,母親の手縫いの袋に入れて持ち帰っていた.そのミルクが布の袋にこぼれ発酵して独特のにおいを発していて,私の子ども時代の記憶は今,ヤギチーズを食べると,香りと共に鮮やかによみがえってくる.
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