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はじめに
「発達」という言葉も「障害」という言葉も,昔からある表現ですが,これら2つの単語を組み合わせて「発達障害」という表現になると,とたんにわかりにくくなります.最近話題になっている発達障害は,あとで触れる発達障害者支援法にもありますように,自閉症や注意欠陥・多動性障害(ADHD),学習障害などを含む一群の障害として定義づけられていますが,この言葉は以前には別の意味で使われていました.英語では「developmental disability」と表現しますが,この言葉が最初にアメリカで出たのは1960年代,ケネディ大統領の時代で,主として知的障害者,あるいはそれに類する障害を「発達障害」と位置づけ,支援をしようという概念でした.すなわち発達障害の根幹は知的障害とされていました.わが国でも日本精神薄弱研究協会が1970年代から開かれていましたが,精神薄弱という用語が差別的であるという批判もあり,1992年に発達障害学会と名称が変わりました.この学会では当初から知的障害を中心として研究や検討を進めており,名称を発達障害に変えても,発達障害を,知的障害という意味で使用していました.なお1998年に精神薄弱は法律的にも知的障害という用語で統一されました.
しかし現在広く考えられている発達障害は,知的障害というよりは,むしろ行動やコミュニケーションの障害が中心となっており,自閉症ではしばしば知的障害を伴う(これについては別の回でお話しします)ものの,ADHDや学習障害などのその他の発達障害では,知的能力や基本的な社会生活能力には著しい困難を伴いません.歴史的な経過と,現在の法律に代表される考え方の違いが,発達障害という用語の使用における誤解を招いてきました.今回は現在考えられている発達障害についてお話しします.
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