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はじめに
「夜はちゃんと寝て.お願いだから.遅くても10時には寝てね.9時ならもっといいし,8時ならもっといい」,「身体を冷やさないように,タイツをはいて,スパッツをはいて,それからズボンをはくの.おなかは10枚,足元は3枚」,「毎日少なくとも2時間,歩いてね」.
これらの言葉はある助産所において,妊婦健診に来た女性が助産師からかけられていた言葉である.これは一世代前のことなどではなく,現在も当たり前のように行われている.助産所でこのような生活に関するコメントがたくさんかけられているのだ.
初めて助産所を訪れた女性は,時間をかけて身体をみてもらったという嬉しさはあるのだが,助産師から今となっては時代錯誤と思われるようなこうした生活に関するアドバイスをされることに対して,「これだけ忙しい中でどうやって2時間も歩くの?」とか,「夜10時に寝るなんて無理でしょ…」と驚くことが少なくない.しかし,半信半疑ながらアドバイスに従って少し取り組んでみると,次の健診時に「少しお腹があったかくなっているわ」と褒められる.助産師が自分の体の変化をわかってくれるということは,きっと私の身体の何かが変わってきているのだろう,と妊婦はアドバイスに沿ってまた,生活改善を継続してみる動機が生まれる.
現代的な生活とはまるで次元の違うような生活改善に向けてのやりとりを女性たちが受け入れていることは,大きな驚きであるとともに,「行動変容」について常に考え続けている公衆衛生研究者の私たちにも,強く惹かれる何かがあった.助産所,というところではいったい何が行われているのだろうか.私たちは助産所のケアに関する調査を行ってきた.いくつかの調査を通じて,助産所は地域における「公衆衛生的な役割」を担っていることも窺われた.本稿では,助産所で行われているケアのうち,特に公衆衛生の役割についてポイントを当て,まとめてみたい.
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