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産科・周産期医療は,現に妊娠した女性と胎児・新生児の管理を担当する診療分野であり,妊娠・出産する女性の数とその構成の変化に対応することが必要になる.産科医療においては,戦後のわが国の出生数の著しい変動,すなわち1949年(270万出生)をピークとする第1次ベビーブーム,1973年(209万出生)をピークとする第2次ベビーブーム,1990年頃(120万出生)までの急速な減少とそれに続く緩やかな減少傾向(2007年109万出生)に対して,それぞれの時期の社会的経済的状況と医療水準,社会的要請に即した対応がなされてきた.その結果として,わが国の周産期医療統計指標は,世界的に見てもきわめて高い水準を示す一方で,近年は産科医・新生児科医・助産師の不足と分娩取扱施設の減少によるいわゆる「産科崩壊」「分娩難民の発生」等の社会問題を惹起するに至っている.
今後,妊娠可能年齢(15~49歳)の女性人口が2010年の2,720万人から10年間で2,440万人に10%減少する.出産する女性の95%以上を占める20~39歳の女性人口は,2010年の1,090万人から2020年には900万人(18%減),2025年には860万人(22%減)へと減少する(各年次の出生数からの単純推計).出生数がさらに減少することは確実である.少子化は社会にとって,個人・家族にとって,出生する児の希少性=貴重性を高めることとなり,求められる産科・周産期医療水準もさらに高まると考えられる.その一方で分娩の絶対数の減少は,分娩施設の減少につながり,地域における分娩施設へのアクセスを困難にし,利便性が損なわれる結果となる可能性が高い.産科・周産期医療提供体制において利便性と医療水準の両者を確保するためには,高コスト化は避け難いと考えられる.
本稿では,戦後のわが国の分娩の実情について,歴史的観点から概観し,その特徴と問題点を示した上で,今後のあり方について考えられる選択肢を提示する.
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