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戦後GHQの指導の下に,保健所法による地方の公衆衛生行政の枠組みが構築された.それからの約50年間は都道府県の出先である保健所を中心として公衆衛生行政が展開されてきたが,その間に急激な人口の高齢化と出生率の低下,疾病構造の変化,国民のニーズの多様化や生活環境問題に対する住民意識の高まり等の要因を背景に,保健所を中心とした保健サービスの供給体制がこのような変化に対応していないという基本認識に基づき,平成6年に地域保健対策の見直しが行われた.平成6年の地域保健対策見直しの基本的な視点は,それまでの都道府県中心の体系から市町村の役割重視への転換,保健所の機能強化,保健・医療・福祉の連携,マンパワーの確保・充実であった.
その後,住民に身近な基本的な保健サービスは市町村が担うべきであるという考え方の下に,介護や精神保健をはじめ多くの分野で制度改正が行われた.一方,SARSや新型インフルエンザをはじめとする感染症対策,食品保健等の課題に対処するため,保健所の危機管理対応への体制強化が検討課題となっている.さらに,平成18年の医療制度改革では,それまで公衆衛生,地域保健行政の体系の中で実施されてきた生活習慣病の健診,保健指導が医療保険の保険者に義務付けられる制度改正が行われた.この制度改正は,戦後わが国の保健医療行政の基本的考え方,つまり公衆衛生,保健サービスは一般衛生行政で,疾病の治療は医療保険でという基本的枠組みの一部が大転換された.併せて,平成18年度の医療制度改革では,医療計画制度の見直しが行われた.この医療計画制度の見直しは,糖尿病等の生活習慣病やがん対策の分野では地域保健に直接関連する多くの課題と役割が投げかけられており,保健所や市町村の一般衛生行政部門の側からどのように医療計画の策定プロセスに関わっていくかという新たな課題が突きつけられている.このような地域保健や医療制度改正の流れを踏まえて,地域保健の現状と課題を整理し,今後の方向について私見を述べたい.
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