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1999年の「結核緊急事態宣言」以来の見直しを経て,2005年には結核予防法大幅改正が行われた.そしてその施行段階で浮上した問題から,急遽結核予防法の感染症法への統合が提起され,2007年から施行の運びになった.結核予防法改正は,いわば低蔓延状況への技術的対応を縦糸に,人権や地方自治,EBM等の理念を横糸にするものであったが,それの重要性は感染症への統合においても変わらない.むしろ,改正感染症法には,急性感染症を主たる対象としてきた感染症法の中に,これと対応のかなり異なる(登録や患者管理,定期検診などといったユニークな事業を含んだ)旧結核予防法の規定がかなりの部分そのまま取り込まれており,その意味ではこれまでと比べて大きな変化はないとも言える.しかし,結核予防法廃止前後からのいくつかの問題を契機として,法の運用に関する新規の規定や未確定の問題が種々顕在化しており,それらへの現場の対応如何によっては,結核対策の大きな障害となる可能性もある.
今後の結核対策の重い視点を2つ挙げるならば,①感染症としての結核への対応の強化,②健康格差対策,であろう.①は当然と思われるかもしれないが,これまでの日本の結核対策では,伝統的に健康問題としてあまりにも大き過ぎるという観念から見失われがちな点であった.今回の感染症法との統合では,それが形式的にも明確になったことは(強制力などの次元でではなく),統合のメリットと言える.その具体的な事業の柱は,(ⅰ)日本版DOTSによる確実・良質な医療の確保(これによる患者QOLの改善,感染機会の低減,多剤耐性結核の予防)であり,(ⅱ)接触者健診と化学予防の強化,である.
本稿では(ⅱ)は次章に譲り,(ⅰ)を中心に紙幅の限度内で議論したい.
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