連載 感染症実地疫学・9
広域散発事例への多自治体協力による症例対照研究と今後への提言
中瀬 克己
1
1岡山市保健所
pp.706-711
発行日 2006年9月1日
Published Date 2006/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100644
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岡山市は2004年4~5月に広域に散発した腸管出血性大腸菌感染症の調査と対策をFETP(国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース)の援助を得つつ多自治体と協力して行った.今まで都道府県を超えて,散発する食中毒など経口感染症への協力はあまり行われていない.その理由は,個人情報が含まれ共有が困難なこと,調査の取りまとめや権限の1本化が困難なことなどである.しかし経口以外の感染症では,SARSを疑われる例への調査,新潟などでの不明脳炎集団発生での実績が積まれてきている.現在新型インフルエンザへの多自治体協力による対応が緊急の課題であり,頻度が多いと思われる経口感染症(食中毒)への対応は,その訓練と体制整備の機会としても有用である.
食中毒では病因物質,原因食品,原因施設という3つの概念によって原因の特定と再発防止対策を行う.今回の事例では病因物質は腸管出血性大腸菌O157VT2と特定できた.しかし,原因食品は疫学調査によって疑われる食品が推定されたが特定できず,原因施設も特定できなかった.幸い,継続的な患者発生は把握されなかったが,原因食品と原因施設が明らかとならなかったことから,再発防止への貢献は少ない.
一方,調査過程で得られたものは大きい.今回の新しい調査手法と多自治体協力で得られた経験と今後の改善への提言を踏まえ,迅速・効果的な対応が行えるよう準備を進めたい.本稿では,まず,広域散発事例における調査/対策の基本的な手順を示し(表1)1),これにそって岡山市での具体的な動きを紹介する中で,経験や考え方を示したい.
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