特集 認知症―予防とケアの最前線
認知症高齢者の自動車運転と権利擁護に関する研究
池田 学
1
,
上村 直人
2
,
荒井 由美子
3
,
野村 美千江
4
,
博野 信次
5
1愛媛大学大学院医学系研究科脳・神経病態制御医学講座 脳とこころの医学
2高知大学医学部神経精神科学教室
3国立長寿医療センター長寿政策科学研究部
4愛媛県立医療技術大学看護学科
5神戸学院大学人文学部人間心理学科
pp.692-694
発行日 2006年9月1日
Published Date 2006/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100639
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75歳以上の高齢運転者による交通事故はこの10年間で4.7倍に増加しており,特に死亡事故の発生率が高いことが社会的に問題となっている.また,認知症患者の自動車運転免許保有数は免許保有者数と認知症の有病率から,約30万人に上ると考えられ,認知症患者による事故をいかに防止するか,各方面の対応が急がれている.実際に,認知症患者の23~47%が1回以上の自動車事故を経験し,また認知症患者は同年齢の健常者に比し,2.5~4.7倍自動車事故を起こすリスクが高いと報告されている.
一方,いつ運転をやめさせるべきかについては,多くの研究が,認知症と診断されても,軽度の段階では,その多くが安全に自動車を運転する能力は保存されていることや,自動車が,特に都市部以外で,日常生活に必要不可欠な道具であることから,認知症の診断だけでは,自動車運転免許の取り消しを行うべきではなく,個々の患者の運転技能を評価することが必要であるとしている.そのため具体的な評価法が必要であるが,現在のところ,妥当性のある評価法は存在せず,一般臨床現場で用いられる認知機能評価や日常生活活動評価などでは,重度の患者を安全に運転できないと判断することはできるものの,軽度の患者の運転能力に対する判断の指標は示されていない.また,介護者の患者の運転技能に関する報告も,直接的な利害関係の存在や,観察能力の限界などの理由により,信頼できるものではないとの報告が支配的である.
そのような状況の中,2002年に道路交通法が改正され,その103条で「公安委員会は痴呆症患者の運転免許証を停止,あるいは取り消すことができる」とされた.
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