連載 同行紀・第3回
クメさんと平野さん
弓指 寛治
pp.337-343
発行日 2025年9月15日
Published Date 2025/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.134170450300050337
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「俺は寿司屋やってたから活け造りなんかもできたんだよ」とクメさんが語り始めた。修行していたという街は聞いたことがない地名だった。「一生懸命働いたよ。奥さんと2人でね。だけど喉のとこにイボが見つかってね。それががんで若くして死んじゃったよ」「そうなんですか」と僕は小さく呟いた。「真面目な人だったからね、我慢して働いてたんだろうな。可哀想だった。俺が29、奥さんは31。子どもが2人いて来年小学校に上がるって時でね。死ぬ前までずっと子どものこと心配してましたよ。コーラは飲みすぎないように、とか」「お母さんだったからですね」「そうだね、女の人はすごいね」

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