書評
河村 満 シリーズ編集,石原 健司 著「《シリーズ・高次脳機能の教室》記憶障害の診かた」
小林 俊輔
1
1帝京大・脳神経内科学
pp.894
発行日 2025年9月10日
Published Date 2025/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.038698220530090894
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本書は神経心理のモノグラフの第一弾として刊行されました.神経心理のモノグラフといえば,同じく医学書院から,河村満先生がシリーズ編集を務めた《神経心理学コレクション》が既に存在します.そのため,新シリーズがいかに既存シリーズと差別化を図るのかが注目されるところです.シリーズ第一弾のテーマに選ばれたのは「記憶障害」.まさに神経心理学の中心ともいうべき症候であり,先行する「コレクション」シリーズには,神経心理学の巨匠・山鳥重先生による名著『記憶の神経心理学』があります.新シリーズで記憶障害を担当する著者のプレッシャーは想像に難くありません.
そう思いながら,本書を手にとってみると,医学書院と河村先生の巧みな戦略が見えてきます.既存の「コレクション」は神経心理学を科学として深く掘り下げ,臨床家への啓蒙を意図していたのに対し,新シリーズは初学者が神経心理学をわかりやすく学び,「おもしろい」と感じてもらうことを目標にしているのが伝わってきます.本書の「わかりやすさ」は,数ある神経心理学の教科書のなかでも際立っています.まず,「です・ます」調で書かれていることに驚かされます.大きな活字,豊富なイラスト,まるで中学生向けの教科書のようです.専門家向けの内容でありながら,予備知識がほとんどなくても理解できるように工夫されています.

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