書評
—《シリーズ・高次脳機能の教室》—記憶障害の診かた—河村 満 シリーズ編集 石原 健司 著
池田 学
1
1阪大大学院・精神医学
pp.1521
発行日 2025年11月15日
Published Date 2025/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.048812810670111521
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本書は《シリーズ・高次脳機能の教室》のトップバッターとして出版された。本シリーズはこれから高次脳機能/神経心理学を学ぼうとする人たちを対象としているので,記憶・記憶障害のエッセンスが,この分野のエキスパートである著者のわかりやすい文章と美しい図表で優しく語られている。しかし,内容は深い。経験豊富な認知症にかかわる多くの職種の皆さんにも,手元に置いて繰り返し読んでいただきたい内容である。
私が神経心理学を学び始めた1990年前後は,神経心理学の研究対象が失語,失行,失認などから記憶,情動,いわゆる前頭葉症状へと拡大しつつあった時期であった。エピソード記憶の障害を学ぼうとすれば,自然に目の前のアルツハイマー病の患者さんに引きつけられた。本書でも紹介されている語義失語を意味記憶障害,意味性認知症の視点から再評価した師匠の田邉敬貴先生の仕事にもかかわることができた。そして,認知症の人の生活支援を考えると,保たれている手続き記憶の活用が欠かせなかった。当時は,まだまだ神経心理学をベースにした認知症の研究者は少なかったが,自然に認知症の研究や診療に進むことができたのは,本書のテーマである記憶障害の診かたをある程度身につけていたおかげであると思っている。本シリーズの編集者である河村満先生が冒頭で述べられているように,高次脳機能の診かたがわかると,認知症の症状を具体的に理解することができるようになり,患者さんや家族が何に困っているのか,どうすれば満足のいく生活をすることができるかまで考えられるようになると思われる。

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