車椅子におけるシートクッションの選択—総論

The selection of wheelchair seat cushions: overview

はじめに

　車椅子のシートクッションは，障害者や高齢者の医療および生活における車椅子の使用において，不可欠な要素である．標準の，布を渡しただけのスリングシートは，折り畳みが容易であって短時間の使用には問題ないが，長時間の使用には適しておらず，医療・福祉分野における障害を有する対象者にとって有害な面も多い．これらのシートに専用のクッションを追加することは，使用者の快適性はもちろん，安全性や機能性の向上も期待できる．

　一方，市場には多種多様なクッションが流通しており，福祉用具情報システム（Technical Aids Information System：TAIS）^1）には900点を超える製品が登録されており（2024年8月現在，背もたれのクッション，パッドなどを含む），それらは，個々に異なる特性と利点（欠点）を有している．そのすべてを熟知することはきわめて困難であり，また通常，どのような対象者に使うべきか明示できている製品も多くはない．このため，眼前の対象者におけるシートクッションの選択において，難渋する方も多いのではないだろうか．少なくとも現在のところ，車椅子のシートクッションにおいて，すべての対象者に適合する万能な製品は存在しない．そのため，対象者ごとに個別に適合させる必要があり，これにかかわる専門家による適切な選択が重要とされている．

　そこで本稿では，車椅子用シートクッションの選択のための基本的な知識の底上げを目的として，まずその全体像の提示を試みる．無数にあるクッションのすべてに対して個別に言及することは紙面の都合上できないので，素材や構造，機能などによる分類方法を提示することによって全体を描写する．クッションの分類を土台として，その全体像をイメージできるようになることが，読者の眼前の対象者におけるクッション選択において判断の材料となることを期待する．