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本書はClifford D. Packer先生らが執筆した,“Writing Case Reports:A Practical Guide from Conception through Publication”の翻訳版である.Packer先生の症例報告は,一度読むだけでケースを鮮明に思い起こさせるもので,推論過程を追える明瞭さがあり,仮説提示へ至るまでの流れるような筆運びは「まさに王道!」と唸るものばかりである.彼は数百を超えるケースレポート執筆の教育経験があり,症例報告の神髄を知り尽くした人物で,その教えはシンプルである.考察(Discussion)では症例を文脈の中に位置づけ,説明するための仮説を構築し,説明を超えて症例が示唆するものに言及し,教育的ポイント(Teaching point)を付して締めるスタイルを推奨している.特に,症例を文脈の中に位置づけることを重要な点として強調しており,文脈に従って最適な報告スタイルと論理展開を選ぶことが「価値づけの技法」であり,本書ではその技法が余すことなく記述されている.
さて,今回,Packer先生のケースレポートへの熱い思いを伝える役目を担ったのが,訳者の鹿野先生である.彼は医師8年目にして症例報告を約70編出版し(『BMJ』や『JAMA』も含まれる),日本内科学会総会で症例報告の教育講演を行うに至った傑物で,自著「クリピク本」で大ブレイク中である(『ひとりでも書ける症例報告 クリニカルピクチャー論文のすすめ』中外医学社).鹿野先生のケースレポートは,教育的視点を伝える技巧が最大の魅力だと思われるが,物語性を強調するものや,新たな仮説と示唆を提示する鮮やかな論理展開を見せる王道ものまで,カバー範囲は広い.Packer先生の理想を体現したような人であり,彼が訳者になったことは必然であろう.鹿野先生が心にPacker先生を宿した結果,本書は単なる翻訳を超え,さらに深い世界へと読者を誘うものになっている.例えば,原著ではさらっと書かれた文章に訳者独自の引用をつけてくれているほか,豊富な訳注を通して鹿野先生から医学知識の挑戦を受けたり,文学に関するミニ知識を学ぶこともでき,どこまでも楽しめる作りになっている.

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