日本内視鏡外科学会雑誌 29巻6号 (2024年11月発行)

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原著

NDBオープンデータを用いた虫垂切除手術の実態調査伊藤　慎吾 , 大島　由佳 , 白井　雄史 , 深澤　麻希 , 石井　淳 , 石川　健二 29巻6号 , 2024年11月 , pp.377-385

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◆要旨：【目的】国内における虫垂切除手術の実態を調査した．【方法】レセプト情報・特定健診等情報データベースを用いて後方視的に検討した．【結果】2019年度，2020年度の虫垂切除手術は110,598件で，男性61,712件，女性48,886件．男性は10代，女性は40代に最も多かった．腹腔鏡下虫垂切除術94,474件（85.4％），開腹虫垂切除術16,124件（14.6％）で，膿瘍形成例においても腹腔鏡手術が多く施行されていた．高齢者では腹腔鏡手術施行率は低下していた．件数は東京都，大阪府，神奈川県の順に多く，全都道府県で腹腔鏡手術は開腹手術の件数を上回った．【結語】虫垂切除手術の現状について報告した．

症例報告

短期間で縮小を認めた低異型度虫垂粘液性腫瘍に対して腹腔鏡下盲腸部分切除術を施行した1例福本　結子 , 平木　将之 , 益澤　徹 , 畑　泰司 , 武田　裕 , 村田　幸平 29巻6号 , 2024年11月 , pp.386-391

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◆要旨：症例は80歳台，女性．数年前より年に1回腹痛を自覚し，そのたびに前医で抗菌薬により改善を認めていた．今回も同症状で前医を受診し，血液生化学的検査で炎症反応の上昇を認め，抗菌薬を内服したが改善しなかった．単純CTで右骨盤底に70×40mm大の囊胞性病変を認め，右卵巣腫瘍疑いで当院産婦人科に紹介された．2週間後の造影CTで28×14mm大と著明な縮小傾向を認め，腸管内に内容物がドレナージされた虫垂粘液性腫瘍を疑い，腹腔鏡下盲腸部分切除術を施行した．病理検査では低異型度虫垂粘液性腫瘍（low-grade appendiceal mucinous neoplasm : LAMN）の診断であった．術後2年半の現在も無再発生存中である．短期間に著明なサイズ変化を伴う右骨盤内腫瘍は，LAMNを考慮する必要がある．

Self-fixating meshを用いて腹腔鏡下に修復した特発性上腰ヘルニアの1例加藤　きみ佳 , 瀧井　麻美子 , 大嶋　勉 , 眞弓　勝志 , 田中　芳憲 , 竹村　雅至 29巻6号 , 2024年11月 , pp.392-397

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◆要旨：症例は51歳，女性．右腰背部の無痛性の膨隆で当院へ紹介された．外傷や手術既往歴はなかった．CT検査で右上腰三角から後腹膜脂肪織の脱出を認め，特発性右上腰ヘルニアと診断し腹腔鏡下に手術を施行した．左半側臥位で手術を開始した．右腎臓外側の壁側腹膜を切開し後腹膜腔を展開したところ，右上腰三角に1.5×1.0cmのヘルニア門と同部位から後腹膜脂肪織の脱出を認めた．ヘルニア門周囲を剝離し，15×10cmのパリテックス^TMラッププログリップ^TMメッシュを貼付しヘルニア門を被覆した．術後合併症はなく経過し，現在術後1年まで再発なく経過している．上腰ヘルニアは比較的稀な疾患であり，標準術式が確立していない．今回，腹腔鏡下にself-fixating meshを用いて修復した1例を経験したので報告する．

Interparietal herniaに対してTAPPで修復を行った1例小林　直菜美 , 髙川　亮 29巻6号 , 2024年11月 , pp.398-404

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◆要旨：患者は75歳，男性．3年ほど前から右下腹部の膨隆を自覚しており，徐々に増大傾向を認めたため当院を受診した．立位で右下腹部に膨隆を認め，臥位で自然に消失した．CTでヘルニア囊は内鼠径輪から内腹斜筋と外腹斜筋の間に脱出し，大網が嵌頓していた．以上からinterparietal herniaと診断し，腹腔鏡下に手術を施行した．大網の嵌頓を整復すると術前診断通り，内腹斜筋と外腹斜筋腱膜との間にスリット状のヘルニア門を認め頭外側へ進展していた．また，外鼠径ヘルニア（L1）と内鼠径ヘルニア（M1）の合併も認めたが，同時に修復可能であった．腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術は特殊型のinterparietal herniaに対しても，診断と治療において有用と考えられたため報告する．

腹腔鏡下に手術を行ったWinslow孔胆囊ヘルニアの1例石黒　要 , 新保　敏史 , 守友　仁志 29巻6号 , 2024年11月 , pp.405-412

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◆要旨：症例は91歳，女性．発熱を認め，当院を紹介受診し，急性胆囊炎と診断され入院となった．入院後の画像検査でWinslow孔胆囊ヘルニアと診断され，腹腔鏡下に緊急手術を施行した．腹腔鏡で観察したところ，胆囊全体がWinslow孔に嵌入していた．左腹部に2本，右腹部に1本のポートを置き，小網を切開し胆囊を整復した．その後，アメリカンスタイルとなるようポートを追加し，胆囊を摘出した．Winslow孔ヘルニアでは，小腸が嵌入することが多く，次いで，回盲部，横行結腸の順に多い．胆囊が嵌入することは非常に稀である．適切なポートの追加や配置の工夫により腹腔鏡下に手術を完遂しうる可能性が示唆された．

肝十二指腸間膜内に血腫を形成し腹腔鏡下生検にて確定診断しえた原発性アミロイドーシスの1例溜尾　美咲 , 沖川　昌平 , 花岡　潤 , 徳田　和憲 , 大谷　広美 , 原田　雅光 29巻6号 , 2024年11月 , pp.413-418

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◆要旨：症例は37歳，男性．心窩部痛で近医救急受診したところ，肝十二指腸間膜に腫瘤性病変を指摘された．精査にて肝十二指腸間膜に発生した血腫が疑われたが，組織生検ができず確定診断は困難であった．徐々に増大傾向を示したことから，腹腔鏡下に腫瘤切除を行った．術後経過は問題なく，術後2日目に退院となった．病理組織学的には腫瘤被膜にアミロイド沈着を認めた．術後出血傾向を認めたが，原発性アミロイドーシスの診断のもと化学療法を導入し速やかに改善した．肝十二指腸間膜に発生した腫瘤に対して，確定診断を得る方法として腹腔鏡下手術は有用であり選択肢の1つになると考えられた．

左上腰ヘルニアに対して単孔式腹腔鏡下に完全腹膜外修復を行った1例高山　智燮 , 中村　信治 , 藤井　一喜 , 辰巳　満俊 , 堀川　雅人 29巻6号 , 2024年11月 , pp.419-425

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◆要旨：患者は86歳，女性．約1週間前から左腰背部の膨隆と疼痛を自覚して当院を受診した．初診時には同部位に5cmの膨隆を認め，用手還納は容易であった．腹部単純CTにて左側背腹部に脂肪組織の脱出を認め，また腹部MRIでは腹腔内脂肪と後腹膜脂肪の脱出を認めた．左上腰ヘルニアと診断し，単孔式腹腔鏡下に腹膜前到達法（totally extraperitoneal approach：TEP）で修復を施行した．手術時間は112分，出血量は1gで，術後経過は良好であり再発も認めていない．本邦では上腰ヘルニアに対してTEPを施行した症例は少なく，かつ単孔式腹腔鏡下腹膜外修復法（single-incision laparoscopic surgery for totally extraperitoneal repair：SILS-TEP）にて行った症例は報告上では本邦初である．今回，本疾患に対してSILS-TEPは有用であったと考えられたため，文献的考察を加えて報告する．

画像診断しえた若年女性の遊走脾捻転に対して腹腔鏡下脾固定術を施行した1例市川　直 , 吉冨　摩美 , 松山　剛久 , 吉村　弥緒 , 金田　優也 , 西躰　隆太 29巻6号 , 2024年11月 , pp.426-430

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◆要旨：遊走脾は稀な疾患である．術前の画像検査で脾捻転を診断し，緊急で腹腔鏡下脾固定術を施行しえた症例を経験したので報告する．症例は32歳，女性．急性発症の上腹部痛と嘔吐を主訴に当院を受診した．腹部造影CT，MRIでは，脾臓の一部造影不良と，脾門部にwhirl signを認めた．遊走脾に伴う脾捻転と診断し，緊急手術を施行した．腹腔内は，脾臓が反時計回りに540度回転していた．捻転を解除すると色調は改善し，腹腔鏡下に脾臓を固定し温存した．術後の経過は順調で術後3日目に退院した．術後1年再発なく経過している．

術前診断しえた副脾茎捻転に対して腹腔鏡手術を施行した1例鳥居　剛 , 寺境　宏介 , 加藤　祐一郎 , 山口　直哉 , 水谷　文俊 , 茂野　佐弓 29巻6号 , 2024年11月 , pp.431-436

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◆要旨：症例は40歳台，男性．3日前から持続する左季肋部痛を主訴に救急外来を受診した．腹部造影CT検査にて，脾臓下極に直径約10mmの腫瘤影と，周囲の脂肪織の濃度上昇を認めた．腫瘤が副脾の位置として典型的であり，栄養血管が脾動脈から分岐していたことから副脾茎捻転と診断し，緊急手術を施行した．手術所見は，脾臓下極にうっ血壊死した大網を認めたため，大網を切除した．切除標本では，副脾への栄養血管を軸にして，大網が途中で捻転しており，その先に副脾を認めた．術後経過は良好であり，第2病日に退院した．副脾茎捻転は比較的稀な疾患であり術前診断が困難なことが多いため，急性腹症の鑑別疾患として考慮すべきである．

文献抄録

Robotic versus open partial pancreatoduodenectomy（EUROPA） : a randomised controlled stage 2b trial 29巻6号 , 2024年11月 , pp.437-438

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目次 29巻6号 , 2024年11月 , pp.375

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欧文目次 29巻6号 , 2024年11月 , pp.376

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投稿時のチェックリスト 29巻6号 , 2024年11月 , pp.439

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編集後記石丸　哲也 29巻6号 , 2024年11月 , pp.440

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　編集後記を執筆している現在（8月末日），メダルラッシュに熱狂したオリンピックに続いてパラアスリートの健闘が連日報道されています．また，MLBの大谷翔平選手の活躍に沸き立つとともに，本塁打数と盗塁数の偉業および三冠王の獲得なるかといった予想がメディアを賑わせています．災害，戦争，犯罪，不景気など，とかくネガティブなニュースが多い昨今，朝からスポーツ選手の活躍に勇気をもらい，今日の手術も頑張ろうと前向きな気分になった先生方も多いのではないでしょうか．

　スポーツと言えば，最近同僚と「手術と（チーム）スポーツは似ている」という話をしました．試合本番で勝利を収めるためには，日々の練習や相手をよく知ること，試合当日に向けたコンディショニングが不可欠です．一方，安全で確実な手術（特に内視鏡外科手術）を遂行するためには，off the jobトレーニングや術前のプランニングだけでなく，自分の体調管理も大切です．チームワークが欠かせないことも類似点であり，得心しました．スポーツ全般を観ることも実際にやることも好む私ですが，スポーツの素晴らしさを再認識した次第です．