日本内視鏡外科学会雑誌 20巻2号 (2015年3月発行)

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原著

縦隔鏡を用いた食道癌根治手術を目指したThiel法固定献体での検討東海林　裕 , 永井　鑑 , 藤原　尚志 , 小郷　泰一 , 奥田　将史 , 齋藤　賢将 , 秋田　恵一 , 河野　辰幸 20巻2号 , 2015年3月 , pp.155-160

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◆要旨：【目的】食道癌根治術となる縦隔操作を食道裂孔および頸部から縦隔鏡下に行う手術手技を臨床応用するため，Thiel法固定献体を用いて106tbLリンパ節郭清手法を検討した．【手術手技】気縦隔下に，経裂孔的に左主気管支腹側縁を気管気管支角方向に剝離し，右頸部からも観察の下，左気管気管支角腹側縁に裂孔側よりリトラクターを挿入して内側下方に牽引し，右頸部からの大動脈弓下の視野を確保し106tbLリンパ節郭清を施行しえた．【結論】気縦隔法および左右頸部および経裂孔的な左気管気管支角の展開（クロスオーバーテクニック）によって106tbLリンパ節郭清が可能となり，根治的な縦隔郭清を伴う食道癌手術（mediastinoscopical esophagectomy with lymph node dissection：MELD）は臨床応用が可能と考えられた．

症例報告

右胃大網動脈を用いた冠状動脈バイパス術後の早期胃癌に対する腹腔鏡下幽門側胃切除術の1例中山　鎮秀 , 永井　英司 , 大内田　研宙 , 上田　純二 , 清水　周次 , 田中　雅夫 20巻2号 , 2015年3月 , pp.161-165

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◆要旨：早期胃癌に対する腹腔鏡下胃切除術は今や標準術式となったが，右胃大網動脈を用いた冠状動脈バイパス術後には困難を伴い報告が少ない．症例は76歳の男性で，70歳時に右胃大網動脈を用いた冠状動脈バイパス術を施行された．健診での上部消化管内視鏡検査で胃前庭部に早期胃癌を認めた．また超音波検査，CT検査で胆囊内結石を認めた．右胃大網動脈グラフトは開存しており，これを温存し腹腔鏡下幽門側胃切除術，胆囊摘出術を施行した．腹腔鏡下手術は拡大視効果による安全確実な手技に加え，低侵襲性による早期離床が可能であり，有用であったと考えられた．

腹腔鏡下に切除した大網原発GISTの1例戸口　景介 , 外山　和隆 , 山口　拓也 20巻2号 , 2015年3月 , pp.167-174

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◆要旨：患者は57歳，男性．腹部造影CTにて偶然腹腔内に腫瘤を認め紹介となった．腫瘤は直径5cm程度で大網内に存在し胃大網動脈から栄養を受けていた．大網原発GISTを疑ったが確定診断が得られず，total biopsy目的で手術を施行した．手術は腹腔鏡下に施行し，腫瘤を把持することなく腫瘤周囲の大網をvessel sealing systemを用いて切離し腫瘤を摘出した．腫瘤の大きさは65×55×40mmで，病理学的所見にて大網原発GISTの診断となった．術後9日目に合併症なく退院となった．大網原発GISTを疑った場合は，腹腔鏡下に安全に手術を施行できる可能性があるため，腹腔鏡にて腹腔内を観察することが重要であると思われた．

成人横隔膜弛緩症に対して胸腔鏡下横隔膜縫縮術を施行した1例町野　隆介 , 山崎　直哉 , 宮㟢　拓郎 , 松本　桂太郎 , 永安　武 20巻2号 , 2015年3月 , pp.175-179

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◆要旨：患者は33歳，女性．10年ほど前から左横隔膜挙上を指摘されていたが経過観察となっていた．徐々に嚥下困難感や嘔気嘔吐などの症状が出現してきたため当科を紹介され，手術の方針となった．手術は片肺換気とし，炭酸ガスによる6mmHgの気胸下に胸腔鏡下に単結紮で縫縮を行った．肋骨横隔膜洞側は，緊張が強かったため，両端の正常な横隔膜筋の間に弛緩部の横隔膜を折りたたむように縫合した．術後，症状は軽減し，術後7日目に退院となった．横隔膜弛緩症は成人では比較的稀な疾患とされているが，新生児も含めると様々な手術方法が報告されており，若干の文献的考察を踏まえて報告する．

直腸癌に対して子宮合併切除を伴う腹腔鏡下Hartmann手術を行い経腟的に標本を摘出した1例真岸　亜希子 , 植松　大 , 秋山　岳 , 山本　浩二 , 杉原　毅彦 20巻2号 , 2015年3月 , pp.181-186

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◆要旨：患者は84歳，女性．内腔狭窄を伴う巨大直腸癌に対して腹腔鏡下Hartmann手術を施行した．開腹胃切除後の切開創の開大による巨大腹壁瘢痕ヘルニアを合併しており，標本摘出時に腹壁創の開大に伴う術後創トラブルが懸念された．以上より，子宮合併切除後に経腟ルートで標本摘出を行った．術後創トラブルもなく，経過良好であった．女性の場合，腹壁トラブルを回避するために，子宮摘出後に経腟ルートで標本を摘出する腹腔鏡下手術は有効な術式と考えられたので，若干の文献的考察を加えて報告する．

腹腔鏡下ヘルニア修復術の腹膜閉鎖に用いたBarbed Suture（有棘縫合糸）が術後癒着性イレウスをきたした1例黒河内　喬範 , 谷島　雄一郎 , 兼平　卓 , 道躰　隆行 , 梶本　徹也 , 柏木　秀幸 20巻2号 , 2015年3月 , pp.187-191

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◆要旨：患者は51歳，男性．左鼠径ヘルニアに対し，腹腔鏡下ヘルニア修復術を施行した．術後第3病日に退院となったが，第4病日にイレウス所見を認め再入院となった．保存的加療を行ったが症状は改善せず，第12病日に原因検索のため審査腹腔鏡を施行した．腹膜閉鎖部への小腸の癒着を認め，癒着性イレウスと診断した．癒着部を剝離すると，腹膜より逸脱したV-Loc^TMを認めた．腹腔内に露出し，小腸間膜に癒着したV-Loc^TMを除去し手術終了とした．術後経過良好でイレウス再燃は認めていない．初回手術の際に腹膜閉鎖に用いたBarbed Sutureが原因と考える癒着性イレウスの1例を経験したので，若干の文献的考察を加え報告する．

外傷性腹壁ヘルニアに対して腹腔鏡下腹壁ヘルニア修復術を施行した1例三上　和久 , 古田　浩之 20巻2号 , 2015年3月 , pp.193-197

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◆要旨：患者は52歳，男性．自転車走行中に自動車と衝突して救急搬送され，初診時は左下腹部打撲症として帰宅した．受傷4日目から左下腹部の膨隆が出現して再診した．腹部CTにて腹直筋左下部の断裂と同部位での膀胱の腹壁外への脱出を認めたために外傷性腹壁ヘルニアと診断し，受傷20日目に腹腔鏡下腹壁ヘルニア修復術を施行した．比較的稀な疾患である外傷性腹壁ヘルニアは，腹腔内臓器損傷を伴うことも多く，緊急開腹手術が行われることが多い．しかし，臓器損傷が否定された症例であれば，待機的な腹腔鏡下修復術が施行可能である．感染や術後在院日数，再発率などにおいて優位な本術式は，外傷性腹壁ヘルニアに対しても有用であると考えられた．

術前化学療法後に腹腔鏡下内肛門括約筋切除と腟後壁合併切除を行った高度局所進行直腸癌の1例相場　利貞 , 上原　圭介 , 松本　直基 , 中村　勇人 , 梛野　正人 20巻2号 , 2015年3月 , pp.199-204

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◆要旨：患者は33歳の未婚女性．主訴は下痢と体重減少．大腸内視鏡検査にて下部直腸から肛門管にかかる腫瘍を認め，生検で中分化腺癌と診断された．CTおよびMRI検査では腫瘍は腟後壁への浸潤を認め，肛門挙筋に接して存在した．また左閉鎖リンパ節の腫大を認めた．強い肛門温存と挙児希望があり，術前化学療法として〔XELOX（オキサリプラチン＋カペシタビン）＋ベバシズマブ〕を導入した．4コース施行後の治療効果はPRと腫瘍は著明な縮小を認めたため，腹腔鏡下内肛門括約筋切除術，腟後壁合併切除＋両側側方郭清を施行した．最終病理診断では残存腫瘍は認めず，病理学的完全奏効（pCR）と判定された．

腹腔鏡下手術を施行した血清CA19-9異常高値を伴った胆囊炎の1例新田　敏勝 , 藤井　研介 , 山口　敏史 , 片岡　淳 , 川崎　浩資 , 石橋　孝嗣 20巻2号 , 2015年3月 , pp.205-210

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◆要旨：血清CA19-9は膵胆道系の腫瘍マーカーとして用いられているが，胆囊炎などの良性疾患にて高値を示すことがある．患者は57歳，男性．壁肥厚を伴う胆囊炎でCA19-9は1,059U/mlと異常高値を示した．炎症反応の低下に伴いCA19-9は陰性化したため，胆囊癌は否定的で胆囊摘出術を腹腔鏡下に施行した．CA19-9が異常高値を示した胆囊炎の良悪性の鑑別点として，保存的治療前後でCA19-9値が低下する疾患は良性を考え，保存的療法で自覚，他覚所見が軽快した場合でも，高CA19-9血症が遷延する症例は悪性を考慮すべきあり，CA19-9が陰性化すれば，積極的に腹腔鏡下手術を選択すべきである．

私の工夫

簡便・高画質・安価な内視鏡手術トレーニング用ドライボックス上田　純二 , 中村　宏彰 , 鶴　安浩 , 三宅　修輔 , 井手　貴雄 , 能城　浩和 20巻2号 , 2015年3月 , pp.211-214

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◆要旨：スティールラックや家庭用ビデオカメラなどを用いて，簡便・高画質・安価な内視鏡手術トレーニング用ドライボックスを考案・作製した．誰でも簡単に作製できるため，自宅での個人使用に有用であり，若手内視鏡外科医の手術手技向上の一助となれば，と考え報告した．

文献抄録

Warmed, humidified carbon dioxide insufflation versus standard carbon dioxide in laparoscopic cholecystectomy : a double-blinded randomized controlled trial(他1件) 20巻2号 , 2015年3月 , pp.218-219

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欧文目次 20巻2号 , 2015年3月 , pp.131

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「一般社団法人日本内視鏡外科学会」2014年度・第2回社員総会議事録 20巻2号 , 2015年3月 , pp.134-141

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「日本内視鏡外科学会」決算報告書 20巻2号 , 2015年3月 , pp.142-151

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2014（平成26）年度会計監査報告書 20巻2号 , 2015年3月 , pp.152

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2015年度収支計算書 20巻2号 , 2015年3月 , pp.153

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日本内視鏡外科学会への入会について 20巻2号 , 2015年3月 , pp.215-217

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EVENT NEWS 20巻2号 , 2015年3月 , pp.221-223

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「日本内視鏡外科学会雑誌」投稿規定 20巻2号 , 2015年3月 , pp.224-225

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利益相反自己申告書兼投稿にかかる誓約書 20巻2号 , 2015年3月 , pp.226

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投稿時のチェックリスト 20巻2号 , 2015年3月 , pp.227

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編集後記森　俊幸 20巻2号 , 2015年3月 , pp.228

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　内視鏡外科手術は従来の開創手術を刷新したイノベーションであることに異論は少ないが，日本と欧米では発想やその後の発展が異なっている．まず，本邦では1980年代になっても，内視鏡外科手術という発想は見られなかったが，欧州では同時多発的に類似した概念が唱えられている．また，欧米では先を争うように新たな内視鏡下手術式が報告され，DaVinciに代表される新たな発想による機器の開発も盛んであった．イノベーションジレンマは1997年にクレイトン・クリステンセンが唱えた実証研究に基づくイノベーションに関する法則の1つである．成功している優良企業ほど目の前の顧客ニーズへの対応に注力して，安定的に収益を確保しようとする．そのため，思いもよらぬ所からの破壊的イノベーションが生じた場合に対処できないという内容である．日本人医師が開創手術において優れた手術技術を有していることは欧米人も同意するところだが，日本オリジナルの術式や機器が少ないことの理由もこの辺りかと見当をつけている．一方，日本が得意とするイノベーションの形もある．東レの炭素繊維，任天堂のファミコンやコマツのKOMTRAXなどである．炭素繊維の可能性は40年前に提唱され，世界で50社が新規参入したが，採算にのらず多くの企業が撤退した．東レの炭素繊維の研究開発は長期に及び，炭素繊維事業は40年間ずっと赤字であった．米国の大企業では，このようなことは考えられない．アンドリュー・タンツアーという経済ジャーナリストが東レのイノベーションの成功を分析し，フォーブス誌に寄稿した論文のタイトルは“The Joys of Having Patient Stockholders（忍耐強い投資家の恩恵）”である．これは，株主の投資スタイルが日米で大きく異なることを象徴的に表している．また，企業と従業員の関係も長期コミットメントであり，研究開発担当者は長期にわたってコツコツと研究開発を継続していくことができる．すなわち日本流イノベーションの強みは長期的コミットメントにあるのだと思う．これを内視鏡手術に敷衍するとすれば，長いスパンでの機器や術式のRefineやロボット技術，消化器内視鏡との協業などを通じた高レベル治療の開発などが思いつく．究極の形は，既に手術と呼べないものとなっているかもしれないが，おそらく日本人にしかなしえないものと勝手に思っている．

第28回日本内視鏡外科学会総会（28^th JSES）のご案内 20巻2号 , 2015年3月

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第28回日本内視鏡外科学会総会を以下の通り開催いたします．会員の皆様には多数ご参加いただきますようお願い申しあげます．

第28回日本内視鏡外科学会総会

会長　　松田公志

会　期：2015年12月10日（木）〜12日（土）

　　　　　（10日朝からプログラム開始を予定）

会　場：大阪国際会議場

2015年度技術認定審査（消化器・一般外科領域）手引き変更についての予告 20巻2号 , 2015年3月

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基本情報

日本内視鏡外科学会雑誌
20巻2号
(2015年3月発行)

電子版ISSN：2186-6643 印刷版ISSN：1344-6703 日本内視鏡外科学会

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