Neurological Surgery 脳神経外科 26巻4号 (1998年4月)

口演における態度 久保田 紀彦
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 最近は学会や講演会ブームで,頻繁に口演を見聞する.そのような機会に,口演の態度が大変気になる年になった.若い脳外科医を育てる立場と,人選の義務がある立場がそうさせるのかもしれない.また,年のせいで耳が遠くなったのと,眼が薄くなったことにも関係がある.特に,最近は教授選考の資料として口演を義務づける大学が増加していると聞いており,教授を目指す人は口演の内容ばかりでなく,しゃべる態度も評価される時代である.私共の大学でも,3年ほど前から教授選考の際,最終候補者3名が自分の研究概要,教育と診療に対する意見等を30分間口演し,15分間の質問を受ける講演会が行われている.そこで,自分への反省も兼ねて,思い当たるままに,口演時の『態度』に関係する事柄について綴ってみた.

 まず身なりであるが,当然のことながら,華美な服装は御法度である.また,日本では髪の色や形,装飾品,髭などは,常識の範囲に留めておくべきであろう.最も大切なことは,『しゃべり方』である.時と場合にもよるが,自信に満ちた態度よりも,控えめに淡々としゃべった方がよい.たいていの場合マイクを使うので,声量はあまり大きくなく,ゆっくりと話す方がよい.意味明瞭な言葉を選んでしゃべる方が,すっきりと聞ける.冗長に言葉をならべる癖はつけない方がよい.大変難しいことであるが,顔つきや目つきは淡々として,できれば少し楽しそうにしゃべると,聞いている方は気分が良い.いつもにこにこと笑顔を絶やすことなく喋れる人は幸せである.私自身,見ていて気分が悪いと指摘されたことがあるが,話を強調するときに,前額部に縦皺をつくる癖が未だに抜けずに困っている.

連載 脳神経外科と分子生物学

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I.はじめに

 哺乳類中枢神経系にはアストロサイト,オリゴデンドロサイトおよびミクログリアの3種類のグリア細胞が存在する,アストロサイトは脳血液関門を形成し,神経細胞へのエネルギー供給を行う他,脳損傷時には修復にも関与する.近年,神経伝達の調節にも重要な役割を果たしていることが明らかとなってきた.オリゴデンドロサイトはミエリン(髄鞘)を形成して跳躍伝導の誘導に寄与している.ミクログリアは死細胞の除去の他,各種液性因子を放出して脳のホメオスタシスの維持にも関与している.

 グリア細胞は上述の機能の他に,難治性の遺伝性神経疾患の治療に際しても着目されている.既に米国を中心にパーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS),またはゴーシェ(Gauche)病やクラッベ(Krabbe)病などのリソゾーム病において遺伝子治療の申請がなされているが,ほとんどが,グリア細胞へのex vivoにおける遺伝子導入を基本としている.これは,グリア細胞の前駆体が成人脳にも存在し,in vitroで細胞増殖をさせ遺伝子導入をした後,脳内に戻すことができるからである.

解剖を中心とした脳神経手術手技

Anterior Transpetrosal Approach 河瀬 斌
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I.歴史と適応

 経錐体法(transpetrosal approach)は歴史的に経迷路法を拡大した拡大中頭蓋窩法21)が基盤となり,耳鼻科領域より小脳橋角部腫瘍の手術法として発展した4,22).1977年頃より脳神経外科が参加することにより,この方法は斜台腫瘍にも適応されるようになった1,2).しかし当初は聴力を温存することは考えていなかった.1985年頃から錐体を選択的に削除し聴力を温存しようとする2つの方法,すなわちanterior transpetrosal approach6,9)(ATP)とTrautman三角経由によるpresigmoidtranspetrosal approach3,5)が生まれた.前者は聴器のない錐体先端部を中頭蓋窩側より削除する方法,後者は聴器より後方のTrautman三角部をより後頭蓋窩側より削除する方法である.両方の適応の相違は前者が斜台上部腫瘍や脳底動脈本幹動脈を対象としているのに対し,後者は斜台下部および椎骨動脈合流部以下の椎骨動脈を対象としている点にある.ATP法の特徴は1)聴力保存のほか,2)傍鞍部への展開が容易,3)Labbe静脈損傷が少ないこと,4)顔面神経より前方に直接侵入するため顔面神経麻痺や致命的下部脳神経損傷が少ない,5)テント動脈を離断できるため腫瘍出血が少ないなどの利点がある10,14).その適応疾患はpetroclival meningioma(特に三叉神経内側にat-tachを持つ例),三叉神経鞘腫(特にdummbell型),prepontine epidermoid,側方進展chor-doma,脳底動脈本幹動脈瘤(特に後方向き),橋海綿状血管腫などである.そのkey holeから見える範囲は前方はMeckel腔と内頸動脈C5,後方は内耳道・聴神経,上方は動眼神経,下方は斜台中央部,内方は脳底動脈である.この範囲に腫瘍基部が収まっていれば,腫瘍がより大きくとも摘出できる(Fig.1).

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I.はじめに

 蘇生術の進歩により,多くの急性呼吸循環不全患者が救命され,生存率は向上している.しかし蘇生後生存しえても全脳虚血に伴う意識障害が長期に持続する症例も多い.そして全脳虚血によりもたらされた意識障害を中心とする神経学的所見の異常は低酸素脳症とされ,全脳虚血の程度により差はあれ,予後は一般に不良である1,5,8,18).その予後不良の一因は,急性期を過ぎると低酸素脳症に対する有効な治療法がないことがあげられる.また一方,近年頭部外傷などによる遷延性意識障害に対し脊髄硬膜外電気刺激(SCS)療法が行われ有効例が報告されている6,9,15,19,20).そして発症3カ月以降の慢性期の低酸素脳症に対してもSCS療法が行われているが,その効果は満足する結果とは言えない9).しかし,SCS療法の実験的有効性,および種々の疾患による慢性期意識障害症例での有効性が報告されていることから,低酸素脳症例においても,有効な治療法のない亜急性期にSCS療法を行えば,より良い効果が得られることが期待される.そこで今回われわれは発症1カ月目の亜急性期にSCS療法を開始し,その効果と限界につき検討し報告する.

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I.はじめに

 「浅側頭動脈—中大脳動脈吻合術(STA-MCAanastomosis)は,内頸動脈系の閉塞性脳血管障害に関して再発予防および神経症状の改善に対して無効である」との検討結果が,1985年にTheEC/IC Bypass Study Groupから報告された4,5).しかし,厳密に血行力学性脳梗塞に適応を限定した場合,STA-MCA anastomosisは血行力学を改善することによって,再発予防や神経症状の改善が期待できるとする,多数のretrospective studyが報告されてきた1,2,7,11,12).一方,血行力学性脳梗塞と診断し,同じSTA-MCA anastomosisを施行しても,術後の吻合血管を介しての血流量には,MCA全域を潅流するものから,吻合した皮質動脈1本のみの領域が潅流されるものまで,その機能には大きな隔たりを経験する7)

 本来,STA-MCA anastomosisの有効性とは,虚血発作の予防および虚血症状の改善で評価されるが,われわれは,術後の外頸動脈を介する潅流域の広がりを,術後の吻合血管の機能と仮定し,その機能を左右する術前の要素を,retrospectiveに検討したので報告する.

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I.はじめに

 血液疾患を基礎にもつ頭蓋内出血の手術は,出血傾向や易感染性などの問題,さらには原疾患の重篤性のため従来より予後不良とされてきた.しかし最近では,血液疾患のコントロールを行いつつ手術に挑むことによりその転帰は改善されつつあり,手術成功例の報告も散見されるようになってきた4,5,8,10,12-14).しかし,成功例として報告されているものの多くは,周術期管理のポイントとして出血傾向のみに主眼を置いたものであり,基礎となる血液疾患のどの病期の段階に生じた頭蓋内出血は予後不良なのか,また,出血傾向以外の易感染性などの問題まで含め検討している報告はない.今回われわれは,過去2年間に当科で血液疾患を基礎に持ち緊急手術が必要となった頭蓋内出血6手術例を経験したので,基礎疾患の病期別に頭蓋内出血の手術適応と周術期管理について検討し,文献的考察を加え報告する.

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I.はじめに

 私共はこれ迄成人慢性硬膜下血腫(本症)症例に対し,超選択的中硬膜動脈撮影(本法)を行った結果,点状,斑状あるいは帯状の,大小且濃淡様々な異常血管網がほぼ必発して造影され,これが本症外膜に存在するmacrocapillary(MC)と推定されることを報告した8).今回は本法を経時的に施行する機会を得,興味ある所見を得たので報告する.

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I.緒言

 先天性水頭症やその他の水頭症に対して,乳幼児期までの早期にシャント手術が行われた場合,高頻度に脳室がslit-like ventricleになることはよく知られている2,5).このslit-likeventricleはシャント機能不全の大きな原因のひとつであり,このような患児のシャント再建術はしばしば困難である.これら患児の理想的な治療目標は,シャントからの離脱である.

 一方近年,圧可変式バルブの有効性が報告されている4,8,9).中でもHakimらにより開発されたMedos programmable Hakim valve1)は,電磁石のプログラマーを頭皮上より非侵襲的に用いることにより,年齢や病態に応じてそのバルブ圧を30-200mmH2Oの間で,極めて多段階(18段階)に変更できるシャントシステムである.したがって,慎重な操作が要求される圧設定の上昇を,少しずつ段階的に安全に行うことが出来る.今回,われわれはこのMedos programmable Hakimvalveと,可動性の少ない硬性内視鏡に代えてグラスファイバーを用いることにより可動性の極めて向上した脳室ファイバースコープ3,14,15)(軟性内視鏡)を用いて,slit-like ventricleの治療を試みたので報告する.

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I.はじめに

 細菌性心内膜炎に合併する細菌性動脈瘤は中大脳動脈(以下MCA)領域に発生することが圧倒的に多い1,11,12,22,28).これに比較し内頸動脈(以下ICA)領域では,海綿静脈洞も含めた硬膜外発生の報告は散見されるが19,21,23,27),硬膜貫通後の発生は比較的稀である.われわれは,細菌性心内膜炎に合併し出血で発症したMCAの細菌性動脈瘤に対し手術を施行したところ,術前に確認できなかったICAの細菌性動脈瘤が術中に破裂し,治療に難渋した症例を経験した.細菌性動脈瘤の発生機転について若干の考察を加え報告する.

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I.はじめに

 くも膜嚢胞の発生部位として後頭蓋窩は中頭蓋窩に次ぐ.後頭蓋窩くも膜嚢胞の初発症状としてめまい,眼振,頭痛,精神発達遅延等が報告されているが,小児と成人では臨床症状にかなりの違いが認められている2,4).後頭蓋窩くも膜嚢胞では身体他部位における奇形合併率は20-30%であり,中枢神経系の合併奇形も30%と高い(中脳水道狭窄,脳梁欠損など)12)

 われわれは左下肢の脱力発作で発症し,画像上高度な水頭症と広範な脊髄空洞症を合併した巨大な後頭蓋窩くも膜嚢胞の1例を経験し,嚢胞-腹腔短絡術にて良好な結果を得たので文献的考察を含め報告する.

報告記

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 第9回北米頭蓋底外科学会は,Hawaii島のKailua-KonaのKeahole空港の北,約30kmに位置するHilton Waikoloa Villageで,Virginia大学Steven A Newman会長のもと,1998年2月13日から17日まで開催された.昨年の第8回北米頭蓋底外科学会はまだ肌寒い3月のArkansas州のLittle Rockで,2nd International Congress onMeningiomas,2nd International Congress on theCerebral Venous SystemとのJoint Meetingとして開催されたが,Little Rockが(Clinton大統領の出身地として有名にはなったが……),人口10万人そこそこの田舎町であったのと実に対照的である.今回は,日本と韓国の頭蓋底外科学会とのJoint Meetingであったため,Newman教授は3国の中間に位置する南海の楽園Hawaii島を開催地に選んだ.Kilaueaを擁する火山の島で,溶岩の黒の中に鏤めた珊瑚の白の荒野の中を走る道路を30分程車で北上すると,海岸沿いに人工のオアシスが見えてくる.この一角にHilton Waiko-loa Villageがある.広大な敷地内に5つのTow-erをtrainとboatが結び,2つのプール,イルカや熱帯魚の泳ぐlagoonなどのレジャー施設が点在する.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
26巻4号 (1998年4月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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