特集 着床
特集にあたって
吉村 泰典
1
1福島県立医科大学副学長/慶應義塾大学名誉教授
pp.10-10
発行日 2015年9月1日
Published Date 2015/9/1
DOI https://doi.org/10.34449/J0015.22.03_0010-0010
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生殖とは生命体がこの世に現れて以来,連綿と繰り返してきた生命の保持を目的とした極めて重要な行為である。ヒトは生殖により次世代を産生し,個体の死を超えて存在することを可能としている。生殖現象のなかでとりわけ着床は,子宮内というブラックボックスで生起することもあり,研究手法が難しく成果を得にくい過程であるため,これまで最も神秘的なプロセスと考えられてきた。着床が成立するためには,子宮内膜と胚とのクロストークによる時間的,空間的な同期化が必要となる。着床の中心的役割を果たす卵巣性ステロイドホルモン,主にプロゲステロンが子宮内膜を脱落膜化させ,さまざまな生理活性物質が産生され,細胞間相互作用を介して巧妙精緻なネットワークが形成される。受精後,胚は子宮腔に達し,implantation windowと呼ばれる時期の子宮内膜に接着し,着床が開始される。着床が多くの生命現象のなかで大変ユニークな点は,大いなる種差があることと,子宮内膜と遺伝学的に異なる胚がいかにして受容能を獲得するかということにある。このメカニズムを解明するためには,ヒトの胚を用いた研究が必要となるが,倫理的な制約もありヒトの着床機構を分子レベルで解析することは困難を極める。
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