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はじめに
近年,悪液質に対する関心が高まっている.悪液質は古代ギリシアのヒポクラテスの時代から知られていたようで,わが国でも平安時代の医学書である『医心方』にも類似した病態の記述がある.しかし,悪液質の病態解明や治療に関して,あまり進歩していない状況が続いていた 1).
悪液質という複雑な病態を簡単に表現すると,「がん・感染症・呼吸器疾患・心疾患・膠原病等の慢性疾患の進行により消耗状態が持続し,やせ衰えていく病態」となる.生体反応として産生される炎症性サイトカインや腫瘍細胞が産生する因子が関与し,エネルギー代謝の異常と骨格筋の分解を生じるのである.2006年になってEvansらにより, 悪液質は「基礎疾患に関連して生ずる複合的代謝異常の症候群で,脂肪量の減少の有無にかかわらず,骨格筋量の減少を特徴とする」と定義された 2).
がん悪液質は,悪液質のうち,がんに関連するものであり,体重減少(骨格筋の喪失)・食欲不振・倦怠感等を主な徴候とし,がん患者の生命予後やQOL(quality of life)の悪化に関連する 3, 4).2011年にはFearonらにより,がん悪液質は「通常の栄養療法では完全に回復することができず,進行して機能障害に至る,骨格筋量の持続的な減少(脂肪量減少の有無にかかわらない)を特徴とする多因子性の症候群」と定義された 5).
悪液質の研究は,がん悪液質において進んでおり,本稿ではがん悪液質を中心に述べる.がん治療における悪液質のマネージメントの必要性は言えば更なり,という感があるが,実際には認知度はそれほど高くない.がん悪液質に対するグレリン様作用薬アナモレリンが承認された2021年前後でのWebアンケート調査では,医師の認知度は向上していたが,メディカルスタッフでは変化に乏しかった(図1)6).しかし, がん悪液質は多職種による介入が必要といわれており,患者や医療者全体への啓発活動も重要である.
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