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はじめに
術後せん妄(postoperative delirium:POD)は,術後の日常生活動作能力(ADL)低下,院内滞在日数の延長,医療費の増大などに関わる重要な問題である1)。また,PODは術後認知機能障害や術後認知症の発症と関連するため2),早期発見・早期介入の重要性が謳われている。
PODはさまざまな病態機序が唱えられているが,現在もっとも有力とされているのは脳内炎症によるものである。これは手術侵襲,炎症,麻酔,疼痛などによって脳内炎症が誘発され,PODを発症するというものである3)。加齢や全身炎症に伴い,脳内のミクログリアやアストロサイトといったグリア細胞が加担し,脳内炎症を惹起しやすい状態となる4)。実際にわれわれ弘前大学麻酔科学講座では,頭頸部がん再建手術や食道がん根治術といった高侵襲長時間手術において,炎症の程度を示す好中球リンパ球比(neutrophil lymphocyte ratio:NLR)の術前値がPODと関連することを2つの後ろ向き観察研究で報告した5)6)。術前の全身炎症により,脳は脳内炎症を惹起しやすい脆弱な脳へと変化し,そこに高度な手術侵襲・炎症が加わることでPODを発症しやすい状況となっている。
全身麻酔中の脳波測定は患者の麻酔深度を推定できるだけではなく,患者の脳の状態を把握するのに有用である。実際,加齢7)や術前の認知機能低下8)は全身麻酔中のα波のパワーを低下させることが分かっている。そこでわれわれは,周術期の脳内炎症やPODを早期に予測するための可能性のある方法として全身麻酔中の脳波測定が有用なのではないかと考えた。本研究では,全身麻酔中の脳波α波,周術期炎症マーカーを測定することにより炎症がPODへ与える影響,またα波が高侵襲手術におけるPODを予測するのに有用かどうかについて検討を行った。
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