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“働き方改革” はこれまでのわが国の労働観を否定するが如き用語であるが,ワーク・ライフ・バランスが叫ばれる現代において人口に膾炙する用語である。要は仕事を効率化させ,生産性を維持しながら私生活を充実させるということであろう。過日だしぬけに本誌ライバル誌よりワーク・ライフ・バランスに関するエッセィの執筆を依頼された。日頃より,診察の合間も東海道新幹線適正輸送ダイヤなんぞを夢想する筆者は,斯様な哲学的命題など考えたこともなく,そもそも個人的には自らが鉄道員となっていればワーク・ライフ・バランスなんぞ満点であったわけで,職業選択を誤っただけである。しかし,皮膚科学雑誌に “皮膚科医にならなければよかった” なんぞと中学生の如き作文を書くほど愚かしくもなく,さりとて本誌連載を持つ偽エッセイストの分際では依頼を断る愚行を犯す筈もなく,悪魔の如き直感で本連載に触れてよいなら……とお返事した。ライバル誌を賛美する原稿なんぞ当然拒否されるに違いなく,仕事が一つ減りまさにワーク・ライフ・バランスの天才! なんぞと密かに豪語していると,豈図らんや執筆許可が出てしまった。藪蛇とはまさにこのことであるが,絶好の機会なので “憧鉄雑感” を前面に出し,金原出版の広告のみで,結局ワーク・ライフ・バランスについて何を言いたいのかわからぬ駄文を瞬く間に仕上げた。しかし,驚くべきことに後日振り込まれた原稿料は金原出版より格段に高いことが判明した。これぞ “働き方改革” であり,筆者はこの雑誌にこそ連載を持つべきなのである。ならば今頃億万長者になっていたに違いないが,そもそも筆者なんぞに連載を許可する出版社など世界中を探しても金原出版以外あろう筈もなく,感謝とともに有難くいただく原稿料で細々とカップラーメンを貪る日々である。
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