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心血管イベントのリスクファクターとしての低血糖・血糖変動 厳格な血糖コントロールが,心血管イベント発症を抑制できるかどうかを検討した大規模臨床試験のうち,ACCORD試験では標準療法群のヘモグロビンA1c(hemoglobinA1c;HbA1c)7.5%に対して,強化療法群では6.4%と良好に血糖コントロールされていたにもかかわらず,大血管合併症に対するリスク低下に有意差は認められず,逆に総死亡は強化療法群で有意に上昇することが報告された。厳格な血糖コントロールにもかかわらず,大血管合併症の発症を予防できなかった理由の1つとして重篤な低血糖に起因する心血管突然死の増加の可能性が指摘されている。ACCORD試験では35%が心血管病変の既往がある患者であり,動脈硬化が進んだ状態で低血糖を起こすことで交感神経が急激に緊張し,スパズム,血管収縮,血圧上昇,ひいては,プラーク破裂,急性冠症候群を引き起こしたのではないかと推測される。Desouzaらは,インスリン治療中で良好な血糖コントロールを示す冠動脈疾患を伴った2型糖尿病患者に対して,72時間皮下連続式グルコース測定(continuous glucose monitoring;CGM)とHolter ECGを同時に装着したところ,正常血糖や血糖値200mg/dL以上の高血糖の時間帯には胸痛などの自覚症状や心電図異常(虚血性変化)は認められなかったにもかかわらず,低血糖状態(血糖値70mg/dL未満)や,1時間に100mg/dLを超える急激な血糖低下を示した時間帯には胸痛発作や心電図異常(虚血性変化)が認められたと報告している。非糖尿病の急性冠症候群(acutecoronary syndrome;ACS)患者の夜間から早朝にかけての血糖変動を検討した筆者らの成績でも,ACS患者(n=14)の夜間深夜帯の平均血糖値は,同じく非糖尿病で冠動脈疾患(coronary heart disease;CHD)を有さない対照患者(n=11)と有意差を認めないものの,同時間帯の血糖変動幅の指標は,ACS患者において有意に高値を示し,ACS患者の50%に70mg/dL以下の血糖値を示す症例が認められた。重症低血糖は心血管疾患,突然死につながりうる危機的状況であり,さらに低血糖のみならず夜間の急激な血糖低下も交感神経を介して心血管イベント発症に大きく関与していると考えられる。特に,冠動脈疾患を伴った糖尿病患者では,夕食後高血糖の是正,低血糖の回避により夜間深夜帯の血糖変動を平坦化させ,同時間帯の交感神経を亢進させない治療の選択が,心血管疾患発症阻止の視点からは重要である。
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