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スポーツには様々な種目があるが,大きく団体競技と個人競技に分けられる.サッカーは団体競技である.学生の時からサッカーに明け暮れていた私は,チーム全員が協力して点が取れた時に,至上の喜びを感じてきた.走ることはボールを追いかけるための手段であり,目的ではない.練習時の辛いランニングも,サッカーがよりうまくなるための手段であった.陸上競技は基本的には個人競技である.リレーなどは団体競技としての要素もあるが,基本的には個々のタイムの合計であり,一人一人の個人能力によるところが大きい.私の後輩で陸上部の長距離ランナーがいる.かねてから疑問に思っていたことを聞いてみた.「あんなに辛い思いをして,何が楽しいの?」.答えは,「前を走っている奴がだんだん辛そうになってきてスピードが落ちてくる.これを抜く時の快感がたまらないんすよ」.暗い!!! 長距離ランナーはこんなことを考えて走っていたのか.
私の教室である慶應義塾大学スポーツ医学総合センターにも長距離ランナーがいる.彼は都心のど真ん中,御茶ノ水のマンションに住んでいて,信濃町まで毎朝走って来る(約5km強).しかし,長距離ランナーにとってはあまりにも近い.そこで,まっすぐに大学に来ずに皇居を一周回ってから来る.帰りもまた皇居を一周回ってから帰る.毎日そんなことをする位なら,もっと遠くの安いマンションを探せばいいのにと思うし,サッカー部の私には,まっすぐ早く帰ってビールを飲んだほうが幸せな気がするのだが….しかし,彼は毎日朝と夕方,皇居を一周ずつ2回,回っている.多分,長距離ランナーはかなりM系なんだろうと思う.自分を追い込んで追い込んで,耐えて耐えて,最後に勝つことに喜びを感じる.S系の人間が多いサッカー選手には,この感覚はどんなに頑張っても理解し難い.
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