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日本では緩和ケアという概念が社会,医療者から大きく誤解されてきたと感じる.もちろん医療者からの誤解のほうがずっと厄介である.このたび改訂第2版が上梓された本書が広く利用され,まずは医療者の誤解がなくなることを切に願いたい.目次をみただけでも基本的な誤解,すなわち “緩和ケアはがんの終末期のみの医療” との誤解は解消しそうである.日本と米国におけるオピオイド使用量の比較により,日本で緩和ケアが立ち後れているとの主張があったが,この議論はこの誤解を助長したのではなかろうか.当時,専門家や行政もこの議論に加担したように思う.米国でのオピオイド使用量は日本だけでなく,カナダ,ドイツ,オーストラリア,フランス,英国などと比べても突出している.要するにFDAが再三警告しているように,米国ではオピオイドが不適切に乱用されているのである.緩和ケアをオピオイドの使用に矮小化することは大きな誤解の一つである.次いでTemelの論文が話題になると,早期から緩和ケアを提供すると,されなかった患者と比べてQOLや気分の向上だけでなく,生存期間も延長すると主張され,このときも多くの医療者がこの議論に加担した.正しくは,化学療法を行う医師が緩和ケアを行いつつ,必要に応じて緩和ケアチームに紹介する群と,はじめから緩和ケアチームが毎月介入する群とを比較したのであり,緩和ケアの質・量の違いによるアウトカムを検証・探索したものであった.しからばすべての患者に対して早期から緩和ケアチームが介入するか,それが無理ならすべてのがん治療者が今より質の高い緩和ケアを提供できるようにする必要がある.がん診療連携拠点病院などの医師を対象に緩和ケア研修会(PEACEプログラム)が行われるようになったことはこの意味で有用であるが,あくまでもプロセスの初期段階にすぎない.
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