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はじめに
乳がんは近年,女性の臓器別がん罹患率第1位であるだけでなく,年齢別罹患率をみると30代から上昇し,とくに社会や家庭での役割が増す40歳台後半~60歳台前半で罹患率が大きくなっている1).
一般に,がん治療において患者は多くの外見上の変化を受け入れなければならないが,乳房は女性のボディイメージやセクシュアリティに大きくかかわる臓器であり,乳がん患者にとってその整容性の維持は非常に重要である.がん治療では治癒がもっとも優先されるが,放射線治療は乳房温存手術後では再発防止の観点から必須であり,乳房全切除術と同等の予後が得られる2).しかしながら照射により初期の段階から基底層が破壊され,毛細管の障害のみならず,ヒスタミンやセロトニンの分泌による炎症反応が誘発される.その結果,紅斑やメラニンの表層への移動により色素沈着がみられる.さらに毛囊への障害から脱毛が生じる.また,皮脂腺,汗腺は30 Gy程度でも強い障害を受け,表皮の破壊とともに水分保持機能が失われ,乾燥,瘙痒感を訴えるようになる3).晩期には色素沈着,皮膚萎縮,皮下組織の硬化などの皮膚症状がみられ4),生活の質(quality of life)に大きく影響する.このような晩期障害のリスク要因として急性皮膚炎が挙げられる5).したがって照射中および後の照射部位のセルフケアは整容性にとってもきわめて重要である.
欧米では,照射前段階からの積極的なスキンケア実践が推奨されている6).一方,日本放射線腫瘍学会は『患者さんと家族のための放射線治療Q & A(2015年版)』で,放射線治療中に照射範囲への外用剤使用は放射線による皮膚炎を強めるおそれがあるとして避けるよう,さらに放射線治療終了後2~3ヵ月程度は皮膚炎が続くため外用剤は避けるよう,注意喚起している7).
当科での2017年の新規乳がん症例は469人と全国的にみても多い.このような背景から皮膚科医の支援を得て放射線腫瘍科が中心となり,乳がん患者への放射線治療が皮膚に及ぼす生理的変化の検証と,保湿剤の有用性を検証するランダム化比較試験を行い,すでに報告した8).本稿では,この試験で得られた結果を臨床の場に生かして現在行っているケア方法を紹介し,看護の視点から乳がん患者の保湿ケアの重要性を考察する.
本稿は,下記の論文の報告に基づくものである.
Sekiguchi K et al: Randomized, prospective assessment of moisturizer efficacy for the treatment of radiation dermatitis following radiotherapy after breast-conserving surgery. Jpn J Clin Oncol 45(12): 1146-1153, 2015
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