発行日 2007年4月1日
Published Date 2007/4/1
DOI https://doi.org/10.15106/J00974.2007195271
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バセドウ病では甲状腺機能亢進によって右心不全を合併することがあり、そのさい心不全の症状として胸水や浮腫を認めることがあるが、臨床上問題になるほどの大量の腹水を呈することは稀である。今回、胸水・浮腫に加えて大量腹水と高度の低アルブミン血症をきたした症例を経験し、これらの症状は抗甲状腺薬の投与によって改善した。患者は55歳女、大量腹水を生じた原因として腫瘍や腹膜炎は否定的であり、右心不全、肝鬱血、門脈圧亢進、低アルブミン血症が複合して発生したのではないかと思われた。低アルブミン血症の原因については、病態が完成したあとで食事摂取量低下や腸管浮腫に伴う吸収不良によって生じた可能性が考えられた。甲状腺機能検査ではFT3とFT4が実際の病勢と比較して低すぎる値で推移し、これは低栄養状態や利尿薬投与などを原因とするnonthyroidal illnessによるものと推測された。本例の病態は、バセドウ病の病悩期間が長く治療開始が遅れたために生体のホメオスタシスが破綻して生じたと思われるが、甲状腺クリーゼとは異なる特異なものであり、バセドウ病の診療を考えるうえで示唆に富む症例であった。
©Nankodo Co., Ltd., 2007