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COVID -19 患者への抗菌薬使用
COVID -19はウイルス性疾患であり,当然ながらそれ自体に抗菌薬は効果がない.しかし,COVID -19に細菌性肺炎が初めから,あるいは二次的に合併することがあり,その細菌性肺炎に対して抗菌薬が必要になる.このため,とくに重症のCOVID -19患者では,入院当初から抗菌薬が投与されることが珍しくない.とりわけ2020年当初の流行初期の臨床現場では,SARS-CoV-2 PCR検査の結果が翌日以降,場合によっては数日後にならないと判明しなかったこともあり,呼吸状態が不安定な患者においては少なくともその結果が判明するまでは細菌性肺炎の可能性も考え抗菌薬を使用することが多かった.また,当時はCOVID-19への細菌性肺炎の合併頻度がまだよくわかっていなかったが,MERSなど類似のウイルス性呼吸器感染症では細菌共感染が多いことから,PCR陽性判明後も抗菌薬投与が継続されることがしばしばあった. しかしその後,COVID-19への細菌共感染は実はかなり少ないとする報告が相次ぐようになった.2020 年7 月には早くも24 もの研究を検討したメタ分析が報告されている1)(受理されたのはなんと同年5月のことである).これによると入院ないしICU入室となったCOVID -19患者で,来院時から細菌性肺炎を合併しているもの(=共感染)はわずか3.5%で,二次的に細菌性肺炎を合併した症例は少し増えるが14.3%だった.重症患者に限定すると共感染の割合は上昇するものの,それでも8.1%にとどまっていた.これらは時期的にほとんどが流行初期の中国からのデータをもとにしたものだったが,その後世界各国からほぼ同じ数字が出されており,その信頼性は高いといえる. これらを受けて現在のWHOやNIHのガイドラインもルーチンの抗菌薬投与を勧めないと記載している.しかしCOVID -19への抗菌薬使用率は総じて高く,2022年に報告されたメタ分析では高所得国の患者の58%が,中低所得国では89%もの患者が抗菌薬投与を受けていた2).とはいえCOVID -19に細菌性肺炎が合併しているか否かを臨床的に峻別することは容易ではなく,重症例では症例ごとに評価したうえでの抗菌薬投与はやむを得ないと考える.ちなみにCOVID -19に合併する細菌性肺炎の起炎菌は,入院初期には市中肺炎のそれと近い.したがって共感染への治療は,市中肺炎のそれと同様に考えるのがよいだろう.しかし入院後数日以降の検体では緑膿菌・腸内細菌などが増加する3).重症であればあるほど経過は長引くことが予想され,不用意な広域抗菌薬の使用によってのちの経過で耐性菌の出現を招き,自らの首を絞める結果となりかねない.COVID -19に限って何か特別な抗菌薬の使い方が存在するわけではないので,基本に忠実に,できるかぎり培養検体を採取する努力を行い,毎日抗菌薬が必要な病態なのか評価し,さらにde-escalationが可能か検討するという普通のプラクティスを着実に行うことが重要だ. なお,COVID -19において細菌性肺炎の合併とは全く異なる文脈で「流行った」抗菌薬がある.それはマクロライド系抗菌薬のアジスロマイシンのことで,それ自体の抗炎症作用や,抗ウイルス作用が期待されてCOVID -19に対して投与されていた.実際の有効性についてはRECOVERY試験などで否定されているが,アメリカでは2020年に外来でのアジスロマイシンの使用量が増加し,COVID -19の患者数と処方量が相関していることが観察されている4).処方量は次第に減少傾向にあるものの2021年時点では依然として2019年よりも高い水準にあるようだ.
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