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Ⅰ.緒 言
競技スポーツは、激しいトレーニングを日常的に実施してスキルやパフォーマンスの向上を期するが、多くのスポーツ障害が発生している(目崎,1997)。その背景には、選手やサポーター間で、治療による一時的なパフォーマンス低下をよしとしない風潮が存在する(岡島ら,2019)。
女性アスリートの健康課題について、2007年にアメリカスポーツ医学会が「女性アスリートの三主徴;Female Athlete Triad(FAT)」を提唱している(Mallinson et al., 2014)。FATとは、『「摂食障害の有無に関わらない利用可能エネルギー不足;Low energy availability(LEA)」、「機能性視床下部性無月経」、「骨粗鬆症」』の総称である。ついで、2014年には、国際オリンピック委員会(Mountjoy et al., 2014)が、「スポーツにおける相対的なエネルギー不足」の概念を提唱した。この概念は、FATを包含し「男女を問わず、スポーツにおける相対的なエネルギー不足は月経や骨の健康だけでなく、代謝・内分泌、精神、発育・発達など全身に悪影響を及ぼし、結果的にパフォーマンスの低下をもたらす」とされる。FAT(Mallinson et al., 2014)、および、スポーツ選手における相対的なLEA提唱(Mallinson et al., 2014)後、女性アスリートが抱える健康問題が顕在化し、世界的には女性アスリートの健康支援構築に向けたエビデンスは集積されつつあるが、日本人女性アスリートに関するエビデンスの集積は限られていることが指摘されている(中村,2021)。加えて、女性アスリートは、現役競技生活中に三主徴に陥ることにより、将来の妊孕性にも影響を及ぼし(百枝,2018)、閉経後には、再びエストロゲン低下に伴う骨密度の低下など、生涯にわたり女性特有の健康課題に直面する可能性がある。
FATは、激しいトレーニングを継続している女性アスリートの健康課題とされていることから、トップアスリートに特有の健康課題と認識されている。しかし、専属コーチやトレーナーによる管理を受けるトップアスリートに比して、体育会系の部活動に加入し競技スポーツに熱心に取り組む学生に対する支援は十分でなく、心 身の健康面に対する負の影響が報告されている。例えば、萩原(2020)は、運動部に所属する女子高校生の約3割に月経異常があり、その発症率は30年前の調査結果と変化がないことを報告している。中学校・高等学校の部活動の運営は、文部科学省の働きかけのもと、学校教育の一環として教育課程との関連が図られるよう留意されている(文部科学省,2017 & 2018)。一方、大学の部活動は、学生主導で運営されており、大学体育会系の部活動に所属する選手・サポーターは共に、女性の身体特徴や生理機能に関する専門知識やコンディショニング技術を有していないことから、大学生アスリートは体調管理が不十分になりやすい。
以上より、女性アスリートが競技において活躍するだけでなく、その後の人生のQOLを維持するためには、競技トレーニングに起因して生じる障害に、早期からの予防的介入と、男性とは異なる指導や練習方法が必要であると考えた。
そこで、本研究は、スポーツ選手における相対的なLEA提唱(Mallinson et al., 2014)以降に発表された、日本人女性アスリートを対象とした研究動向と健康課題を明らかにすることを目的に文献検討をおこなった。その結果から、女性アスリートに対する将来的な心身の健康を見据えた関わりについて考察する。
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