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Ⅰ.緒言
2016年10月1日現在、我が国の65歳以上の高齢者人口は3,459万人にのぼり、今後も高齢者人口、高齢化率は上昇することが推測される(厚生労働統計協会,2017)。さらに、2016年4月末現在、要介護認定者数は622万人と急速に増加し(厚生労働統計協会,2017)、在宅での介護が困難になった高齢者に看護・介護を提供する介護老人福祉施設や介護老人保健施設等の数は年々増加し続けている(厚生労働省,2015)。また、介護保険の施設サービス受給者は2015年度累計で総数1,094万人と、高齢者人口の約3割を占め、そのうち介護老人福祉施設のサービス受給者は1か月あたり平均で51万人にのぼる(厚生労働省,2016)。介護老人福祉施設は、利用者に対して日常生活の世話、機能訓練、健康管理及び療養上の世話を提供する施設として位置付けられ、要介護高齢者の主要な生活施設として需要が高まっている。さらには、看取り対応も強化され、要介護者や低所得高齢者の終の棲家ともなっており、高齢者が基本的な日常生活ニーズを満たしながら、高齢者自身が人生、生活に満足感を感じられるケアの実践が求められる。
介護保険施設の要介護高齢者のニーズやケアのあり方については、いくつかの研究が報告されている。奥村ら(2009)は介護老人保健施設入所中の認知症高齢者への半構造化面接から、マズローの低次のニーズのみに注目した援助だけでなく、尊厳の保持や自己実現といった高次のニーズをも考慮し、「その人らしい援助」、つまりパーソン・センタード・ケアが必要であることを示している。高田(2010)は老人保健施設、および特別養護老人ホームに入所する利用者に質問票による聞き取り調査を行い、高齢者が求める介護は、個別性を重視する介護、自由度の高い空間と時間の提供、QOLの維持向上であり、利用者の望みの一つに個別主義・尊厳重視のケアがあることを明らかにしている。また、永田(1999)は、ケアにおける「その人らしさの尊重」とは何なのか、ケアの実践場面でどのように援助することをいうものなのかを見極めることを目的に訪問看護、在宅看護、介護福祉の文献検討を行い、「その人らしさ」を尊重したケアとは、専門的な援助関係を前提に、「自己選択・自己決定」に基づいた「個別化」された「QOL」を高めるケアであるとともに、「自己実現」と「自立」を達成するケア実践の過程であると整理している。このように、高齢者のケアでは、長い生活歴をもつ高齢者の心身・社会・環境要因に合わせて、高齢者の持てる能力を最大限に生かし(大渕,2009)、高齢者の「その人らしさ」に働きかけることが重要であると考える。
一方で、小和田ら(2011)は、「その人らしさ」は重要視されており、医療関係者は「その人らしいケア」を実現するために努力しているが、「その人らしさ」を規定している定義や概念がなく、抽象的な表現であるため個人の捉え方により違いが生じている現状を指摘している。また、「その人らしさ」は対象者を他者が、「自分らしさ」は自分が自分を捉える表現(小和田ら,2011)であり、介護職が認識する「その人らしさ」が利用者自身の認識する「自分らしさ」にどの程度一致できているのかという疑問が生じる(山本ら,2016)ことも示されている。
このように「その人らしさ」を尊重したケアの重要性は示されているものの、「その人らしさ」と「自分らしさ」の内容がどの程度一致しているか明らかになっていない現状がある。したがって、高齢者が感じる「自分らしさ」と介護職員と看護職員が捉える「その人らしさ」の内容を明らかにすることは、高齢者が自分らしく生きていると実感できることを支えるケアの一助になると考える。そして、介護職員と看護職員が、高齢者自身が感じる「自分らしさ」に近い「その人らしさ」を捉えることで、高齢者個人の生き方を尊重したケアに繋がると推察される。
以上のことから本研究は、介護老人福祉施設の利用者である高齢者自身が感じる「自分らしさ」と介護職員と看護職員が捉える「その人らしさ」の内容を明らかにし、それらの共通点と相違点から高齢者の意思を尊重したケアを検討することを目的とした。
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