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医学と統計学
医学・生物学と統計学は古くから深くつながって発展してきた.統計学は大きく記述統計学と推測統計学の2つに分けられる.前者は,対象集団の状態を記述することが目的となる統計である.19世紀イギリスの医師であり統計学者のウィリアム・ファーは,イギリス統計局創設にあたって死亡などの登録統計を確立したが,これは集団の保健衛生状態をあらわす代表的な記述統計といえる現在の人口動態統計調査の基礎となっている1).また,後者の推測統計学は,限られたサンプルの観察データから自然法則を探ろうとするものである.チャールズ・ダーウィンの従兄である遺伝学者フランシス・ゴルトンは,親子間の身長の関係から相関や回帰などの概念を生み出した.実験データの解析でよく使われるt検定は,ギネス社のウィリアム・ゴセットが醸造での酵母数の分析から生み出し,スチューデントの名で論文発表したものである.また,農事試験場の統計研究員であったロナルド・フィッシャーは,今では臨床試験の標準的デザインとなっているランダム化を実験計画法で表した2).
このように,医学・生物学と統計学の発展とともに,数多くの統計手法が臨床研究で利用されている.各種コンピュータ・ソフトや統計解析パッケージの発達のおかげで,統計学の知識が乏しくても,プログラミング技術がなくても,気軽にデータ解析が行えるようになった.しかしながら,統計学の応用範囲は広く統計学的手法は数限りなくある.臨床研究デザインやデータ特性に応じて最適なデータ解析手法を選び,少なくとも統計手法の誤用を避けるには,どうすればよいだろう.間違いがないのは,研究計画段階から医学統計学の専門家と一緒に進めることであろう.最近では,多くの大学附属病院や中核病院の臨床研究支援部門のスタッフには,医学統計学や疫学のトレーニングを受けた専門家がいる.これら専門家と相談しながら,研究計画書を作成するのが良い.論文投稿後に,査読者コメントで慌てて専門家に相談しても,時すでに遅いことが多い.
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