- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
脳血管障害に伴う後遺症としての視床痛は,耐えがたい痛みであるとともに鎮痛薬が無効であるとして1906年にDejerineら1)2)によって報告された。その後,原因病巣が視床に限らず内包や視床皮質間線維などの障害でも視床痛と同じ中枢性疼痛が出現することが明らかになった。脳卒中後疼痛(central post-stroke pain:CPSP)は,持続的にあるいは発作的に耐えがたいとされる自発痛が生じ,治療的手立てが見いだせない厄介な症状の1つである。筆者は脳卒中友の会(患者会)で出会ったこれらの症状をもつ患者たちから「何度も死を考えた」と言われた時,医療者である私たちの無能さを実感した。脳血管障害といった重篤な病から生還したにもかかわらず,後遺症としての痛みは,その後の人生に,再発の不安とともに痛みやしびれといった持続的にまたは発作的に絶え間ない苦悩を与え続けている。
しかし,こうした苦痛や苦悶が患者から医療者に自発的に語られることがあるだろうか。筆者は,実態調査としての聞き取りを行った際に「寝た子を起こすな」と主治医に投げかけられた言葉に驚くとともに激しい怒りを感じた。その反面,「初めて関心を持って聞いてくれた」との患者の言葉に医療者としての申し訳なさを感じた。また,患者の声を届けると「治療の限界に共に挑もう」と語り合った医師の言葉に励まされもした。
脳血管障害後遺症としての痛みに対しての効果的な治療法や看護ケアは見いだされていないとされてきたが,ここ数年で痛みに関する概念が変わり,医療者の取り組みも変わってきたと言える。国際疼痛学会(IASP:International Association for the Study of Pain)は痛みを「組織の実質的あるいは潜在的な傷害に結びつくか,このような傷害を表す言葉を使って述べられる不快な感覚,情動体験」と定義している。つまり,「身体的損傷部位が特定されなくても患者が訴えるのであれば,痛みはそこに存在している」ということである。ここに,医療としての症状緩和の方策を見いだす必要性が生まれたことになる3)。
では,後遺症としての痛みやしびれはどのような様相なのであろうか。解決を見いだすヒントが患者らの対処行動やその様相にあると言える。以降は,筆者らが行った研究をもとにその実態と対策について考えてみたい。
Copyright © 2016, MIWA-SHOTEN Ltd., All rights reserved.