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はじめに—胸腹部のデルマトーム
デルマトームとは,感覚求心路が単一の後根神経節〜後根〜脊髄分節に入る皮膚領域を意味する.臨床的に広く用いられている,ヒトにおけるデルマトーム図は19世紀後半から多くの著者・研究者によって提供されてきている.すなわち,1862年に皮膚科医のBärensprungは帯状疱疹の剖検例から,分節性の様相と脊髄後根神経節の病理学的相関を報告した68).1893年に有名な生理学者のSherringtonは,単一の神経根障害では隣接する神経根による神経支配の重なりのために感覚障害が生じないと述べ,サルの後根を連続的に切断し,その領域の中央の1本だけを残して,残された後根のデルマトームを調べた67).
その後の研究を経て,30種以上のデルマトーム図が提唱されてきている55)が,現代の多くの教科書に引用ないし孫引きされているのは,以下に示す,互いに異なる手法によって作成された3つである.神経学者のHeadとCampbell(1900)は帯状疱疹の皮疹の分布をもとに体図を作成した28).脳神経外科医のFoerster(1933)は痙性対麻痺のための後部rhizotomyや疼痛治療のための前外側cordotomyを施行した際に,神経根の断端を刺激し,皮膚に血管拡張が生じる範囲を観察して体図を作成した11).この検討によって,隣り合うデルマトーム間の重複が明らかになった.KeeganとGarrett(1948)は神経根の障害を有する,主に外科手術例(神経鞘腫切除後や椎間板ヘルニア手術時の圧排)の感覚障害の観察から体図を作成した32).
以上のどれにおいても,体幹では発生学的な体節構造がそのまま残され,デルマトームは輪切り状に規則的に吻側から尾側へと配列されていて,ほぼ一致している.しかし,下津浦ら55)によれば,下部胸神経領域における曲折分布・断裂分布が示されているのは,HeadとCampbellの図と肉眼解剖学的に末梢から中枢へと追跡し2003年に発表された千葉の図のみであり,相対的に信頼性が高いとされた.これとは別に,用いた皮膚分節の規則性に関する研究60)によれば,野崎45)(図 1)やBonica5)による図がその規則性をよく示しており,臨床応用にふさわしいと結論されている.図 1では,左半身図に各脊髄分節が皮膚のどの部分を支配しているかが示され,右半身図に皮膚のある部分がどのように複数の脊髄分節に支配されているかが示されており,重複支配が理解しやすい.
胸腹部をめぐる臨床の場では運動症状が目立たないため,感覚障害がキーポイントになることがしばしばあるので,本稿では胸腹部のデルマトームをめぐる臨床事項を,以前書いた総説17)を踏まえて,中枢性のものから末梢性のものへと整理して(表 1)述べていくことにする.
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