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当時の社会状況と研究班立ち上げ
低髄液圧症候群,脳脊髄液減少症と用語の問題はあるが,疾患概念として1938年にSchaltenbrand4)によって提唱されたものが,何ゆえ60年を経て,わが国において問題となったのかについては,本症候群と外傷性頸部症候群(頸椎捻挫,いわゆる「むち打ち症」)に関して,2001年に平塚共済病院(当時)の篠永正道らにより「頸椎捻挫に続発した低髄液圧症候群」と題する学会報告が行われたことに端を発する.それまでにも,たとえば2000年にはChungらが,特発性低髄液圧症候群とされていた30例のうち,追加で行った詳細な病歴聴取により7例(23%)で激しい運動や頭頸部外傷の関与が否定できなかったと報告するなど,外傷性のものの存在も考えられてはいたが,あまり注目されてはこなかった.しかしながら,篠永らの報告により,あたかも難治性の外傷性頸部症候群のすべてが低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)のごとく誤解され,裁判で争われるなど社会問題化した.当時,日本の交通事故発生件数は100万件を超え,これに伴いいわゆる「むち打ち症」患者は20万人以上存在すると考えられている.それまで,交通事故と低髄液圧症候群の因果関係が司法の場で認められたのは2例のみであったが,推定で本症候群の患者は10万人存在するともいわれ,事故との因果関係をめぐる当事者間の争いが司法の場に持ち込まれるケースが急速に増加していた.
このような状況を招いた大きな原因は,疾患概念が混乱しており,当時,本疾患に関係する診断基準としては,国際頭痛学会の国際頭痛分類1)や日本脳神経外傷学会の「低髄液圧症候群の診断基準」,本疾患を積極的に治療している医師らで構成されている脳脊髄液減少症研究会ガイドライン作成委員会が作成した「脳脊髄液減少症暫定ガイドライン2007」2)があったが,各診断基準で取り上げている主要症状や参考とする画像診断法,画像診断基準がバラバラであり,意見の一致をみていなかった.
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