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元来,標準化という概念は工業分野において製品の品質・形状・寸法を統一して互換性を高めること(画一化)や,生産性を向上させること(効率化)を目的として発展したものです.近年,この標準化という言葉が,医療分野でも頻繁に使われるようになりました.おそらくクリニカルパスの導入がそのきっかけの一つであったと思います.2000年頃のことです.しかし,人間の形状(解剖)や機能(生理)は,工業製品のように寸分違わぬほど極めて画一的ではありません.そのため,その当時,標準化という概念を医療分野に持ち込むにあたって,個への対応に関するジレンマに困惑する人や,効率化を求めるあまりに安全性が損なわれることを危惧する人が少なくありませんでした.
鏡視下手術では,術者が見ている術野を誰もが共有することができます.そのため,近年の鏡視下手術の発展とともに,手術手技を統一して互換性を高める作業,すなわち手技の標準化が急速に進んでいます.ただし,これは画一化ではありません.そもそも工業分野における標準化とはプロセスが異なります.手術手技の標準化は,まず複数の患者から普遍性のある解剖構造や病態を見出すこと,すなわち画一的ではないものから共通点を見出すことから始まります.次に,繰り返し安全で迅速かつ効率よく実施できる手術手技を選択したり新たに考案したりして,可能な限り統一して標準手技を確立します.ここで重要なのは,手術を受ける複数の患者に一定以上の普遍的要素があることです.これは,手術手技を標準化する際には,同時に適応基準を明確にする作業も必要であることを示しています.標準化によって得られる効率化が独り歩きして,適応外の患者にまで標準化した手術が行われ,安全性が低下したり患者の利益が損なわれるようなことがあってはなりません.
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